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すっぽりと山元さんの腕に包まれたまま爆睡していた俺。 不覚にもここ最近で一番眠れて、目覚めたときは頭がスッキリしていた。 山元さんと一夜を共にし(こんな表現したくないけれど)、分かったことがある。 一つは山元さんは寝相が良い。というより全く動いていない。 だから俺も動けずに眠って、身体は筋肉痛のような痛みがある。 もう一つは寝起きの悪さ。 先に目覚めた俺が何度名前を呼んでもピクリともしない...。 試しに悪口を言ってみても、スゥスゥ寝息を立てている。 その顔は子供っぽいっていうかなんていうか、いつもの山元さんじゃない無防備な顔で、ちょっとだけ『可愛い』と思ってしまった。 「やーまーもーとーさーーん!!!!」 「ん.....」 「朝ですよーーーーーっ!!!」 「んん...」 「おーーーーきーーーーてーーーー!!」 「......」 何とか腕の中から抜け出しはしたけれど、ピクリともしない山元さんをどうやって起こそうか、俺は悩んだ。 何故なら今日も仕事があって、山元さんの自宅が何処にあるのか知らない俺は遅刻しないか心配だったんだ。 まだ朝の5時過ぎだけど、このままじゃこの人寝坊するんじゃないか? 俺まで巻き沿いは絶対に嫌だ。 「...えいっ」 「んんっ」 呼んでダメなら痛いのはどうだろう、そう思って山元さんのおでこにデコピンしてみると、眉間にシワを寄せた山元さん。 日頃の恨みじゃないけれど、無抵抗の山元さんに意地悪するのが楽しくなってきて、何度も俺はキレイな山元さんの額にデコピンを繰り返した。 「そりゃっ!えいっ!」 「んん...っ!」 「うわぁっ!?」 すると山元さんの目がうっすら開き、デコピンを連発する俺の腕を掴むと昨日の夜と同じようにグッと引き寄せられる。 「お前なぁ...っ」 「ご、ごめんなさいっ!!」 「...まだ眠たいんだよ...大人しくしてろ...」 またしても山元さんの腕の中に逆戻りした俺。 そして何事もなかったかのように、山元さんは夢の中。 ...くそ、身体痛いのに...!!!これじゃまた身動き取れないじゃないか!! そう思っても何故か俺にも睡魔が襲ってきて、結局二度寝した俺が目覚めたのは始業時刻の30分前だった。 ***** 「ちょ!待って!山元さんっ!!!」 「誰が待つか。先に出る。」 「やだやだ!待ってくださいよっ!!」 額に痛みを感じて目を開くと、そこには既に髪をセットしスーツ姿の山元さんが居た。 『遅刻するぞ?』そう言った山元さんは、ご丁寧に俺の目の前に時計を持ってきてニヤリと笑う。  ーーー悲鳴を上げ飛び起きた俺はその時間に焦った。 ここまで酷い寝坊は初めてで、移動時間も含めたら準備にかける時間って何分ある? てかそもそもお泊まりセットなんて無いし、風呂も入ってないし...! そんなパニック状態の俺を山元さんは引きずって、廊下を出て左に曲がったところにあった風呂場に連れていくと、『5分』と一言言ったんだ。 それは俺に与えられたお風呂タイムで、焦ってどこを洗ってるのか分からないくらい必死に洗ってギリギリ5分で風呂場を出る。   着替えは無いから同じ服を着て、ベタベタの髪を乾かすことも出来ずに山元さんを追いかけ玄関にたどり着き、今に至るのだ。 「鍵、閉めるぞ」 「あっ!はいっ!......って、え?ここ...?」 「よし。これで遅刻は免れたな。」 「.....そうです、ね...」 靴をちゃんと履かないまま外に出た俺は、その場所に目が点になった。 だってここは会社の真裏で、外に出たら会社が見えるんだもん。 ここならあと5分もあれば余裕で着くし、遅刻の可能性は無い。 「...髪、乾かせたじゃん...」 「寝坊した奴が悪い。」 「っ!山元さんのせいなのにーっ!!」 「はぁ?寝たのは自分、自己責任だ。」 スタスタと先を歩く山元さんを追いかけながら文句を言う俺。 やっぱりムカつく上司、優しさなんて言葉、似合わない。 ...だけど久しぶりに誰かの腕の中で眠った俺は昨日より見違えるほど元気になっていて、そのことだけは少し、ほんの少しだけ感謝していた。 これからゆっくり暁斗さんを忘れよう。 そう思えるくらいに、気持ちも軽くなっていた。

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