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6-12
それから車で移動すること数十分、車はまたしても俺を驚かす場所の駐車場に停まった。
そこは一言で言うなら『ドーーーン!!!』って感じの大層ご立派なホテル。
見上げても最上階が分かんないくらい、それに加えてキラキラしたシャンデリアとか、ふかふかの赤い絨毯とか、無駄に豪華な階段とか...
なんでこんな所に?そう疑問に思いながら中に入ると、山元さんはロビーに行ってこれまたスマートに部屋の鍵らしいものを持って戻ってきた。
「あの...山元さん?ここは?」
「見ての通りだ。」
「...ホテル、ですよね?」
「ここが遊園地や動物園に見えるのか?」
「....見えませんけど。」
「ならいちいち聞くな。ほら、行くぞ。」
そういうことが聞きたいんじゃないんだけど!
イラッとしながら先を歩く山元さんに着いていくと、ホテルの上の方、45階に到着し、その中の一室の前で山元さんの足が止まる。
「...今更だが、お前覚悟は出来てるな?」
「え?な、なんの...?」
「ここまで着いてきておいて、分かっていないなんて言わせないぞ?」
「や、山元さん...?」
一瞬、ほんの一瞬だった。
山元さんから感じたことのない色気が、ぶわっと俺に降りかかる。
休みの日に、一緒に出掛けて、買い物して(一方的にだけど)、たどり着いたのはここ、ホテル。
それに『覚悟』と言われたら、今まで何も意識していなかった俺の心臓が心拍数を上げるのがわかった。
それは久しぶりの感覚で、俺が必死に忘れようとしていたあのドキドキ感に似ていた。
暁斗さんに何回も何回もドキドキした、あの感覚、『忘れなきゃいけない』そう思っていたのに...
山元さんは、一瞬で俺にそれを思い出させた。
キィ、と音を立てて開いた扉の先は、外が見えるように一面ガラス張りで、目に入ると位置に大きなベッドが見えた。
男二人で寝ても十分すぎるサイズ、それは暁斗さんの部屋のあのベッドと同じか、それより大きいか。
(...山元さん...初めからそういうつもりだったのかな...)
よく考えたら、俺たちの関係は上司と部下を超えていた。
だってそうだろう?
ただの部下なのに、失恋して落ち込んでるからって、何度も自宅に呼んで抱き締めて眠るか?
それからわざわざ朝からご飯作るのか?
あんなこと言ってたくせに、初めから下心があって優しくしてくれてたのかな。
そうだよな、きっとそうなんだ。
嫌味も言うけど優しくしてくれたのは、こうするためだったんだ...。
「...どうする?入るか?」
「...はい」
「意味、分かっての返事か?」
「...はい。」
裏切られた、と言ったら違うかもしれないけれど、どこかで山元さんはそんなこと考える人じゃないと思ってた。
確かに顔はいいけど、中身に問題ありっていうか、優しさ以上にムカつく所が見えるし、『恋愛感情』なんて微塵にも感じなかったから。
ああ、でも恋愛感情なんて無くてもいいのか。
所詮エッチなんてそんなもの、昔の俺が思っていたことじゃないか。
(山元さんとシたら、暁斗さんのこと忘れられるのかな...?)
あの温もり、あの感触、全部忘れられるのかな?
...それなら丁度いいか。
全く知らない人じゃないし、暁斗さんみたいな優しさは全然無いし。
違う人なら忘れさせてくれるかもしれない。
今まで何度も忘れようとして忘れられなかった、一番幸せなあの時間を本当に忘れる日が来たんだ。
山元さんの後について、部屋に一歩踏み入れた俺は全てを忘れる『覚悟』をした。
初めて繋がったあの日がフラッシュバックするように頭の中で蘇ったのを、ブンブン頭を振って掻き消して、泣かないようにと天井を見上げた。
「おいで、響」
ベッドに座った山元さんが伸ばした手。
この手に触れたら、もう戻れない。
暁斗さんしか知らなかった俺には、もう戻れないんだ。
「......っ、はい、」
何回目かの『さよなら』を心の中で呟いて、俺は山元さんに手を伸ばした。
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