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6-13
俺の手が山元さんの手に触れて、山元さんの指が俺の指に絡む。
今まで抱き締められてもそれ以上のことがなかった俺たちが、そうしたのは初めてだった。
「...こっち向け」
「っ、」
急に山元さんを意識した俺は、山元さんの顔なんて見れなくて...
目をそらしたり、下を向いたり、『恥ずかしい』と感じていることを隠すのに必死だった。
だって目が合ったら、もうどうなるか分かってしまうから。
上司と部下じゃなくなる、一線を超える、そう分かっていたから中々山元さんの方を向けなかった。
暁斗さんならそんな時、耳元で甘い声で囁いて、俺の理性をめちゃくちゃにして溶かすように触れてきたんだろうけど、俺の前にいるのは、俺が指を絡めているのは暁斗さんじゃない。
グッと手を引かれたと思えば、山元さんは俺を簡単に押し倒していた。
「覚悟が出来たんじゃなかったのか?」
「...だ、だって...」
「おい。顔隠しちゃ何も出来ないだろ。」
「む、無理っ...!山元さんとこんなことになるとか考えてなかったし!...は、恥ずかしい...」
「こんなことって...。ああ、一応意識はしてるってことだな?」
「うっうるさい!!」
顔を空いている方の手で覆ったけれど、今山元さんがどんな顔しているか予想がつく。
きっとあの嫌味タラタラの、ムカつく顔で笑ってるんだ。
「...山元さんって性格悪いですよね」
「はぁ?」
「こんなときくらい...ちょっとは優しくしてくれてもいいのに...っ」
「...ワガママな奴だな、お前。」
ムードもクソもないベッドの上で、しばらく山元さんの悪口を言う俺。
だって一度言い出したら止まらなくて、緊張を隠したくて、何か話していないと『始まる』と思ったんだ。
山元さんも言い返してきて、もしかしたら何もしないかもしれない、そんな雰囲気になってくると俺の緊張はだいぶ和らいだ。
恥ずかしいってドキドキしていた心臓も落ち着いて、覆った手退かして山元さんの顔を見ても平気だと思うくらいに。
だから悪口言いながら俺は恐る恐る手を退けた。
どうせあの顔してるんだろうって思って。
「...やっと顔見れた」
「っ!?」
だけど、違ったんだ。
ふ、と微笑んだ山元さんの表情は今まで見たことないくらいに優しかった。
「そ...れっ、ズルいっ」
「何が?」
「顔っ、そんな顔...っ」
「優しくしろと言ったのはお前だろう?」
「っあ、」
チュ、とリップ音を鳴らし山元さんの唇が絡んだ俺の指に触れた。
言葉や態度からは想像できないあの顔で、本当に触れるだけのキスを何度も俺の指に落とす。
焦れったくなるようなそれは、俺の心を掻き乱した。
だってあの山元さんが、こんなに優しく触れてくるなんて...
絡んだ指も力が入っているのは俺の方で、山元さんは壊れ物を扱うかのようにそっと触れてくるんだ。
あんなに意地悪なくせに、嫌味ばっか言うくせに、そんなのズルい、ズルすぎる。
「や、だ...っ、も、やめて...っ」
「うるさい。」
「だって......っんぁ!」
指ばかり触れていた唇が俺の首筋に移動すると、くすぐったさと恥ずかしさで変な声が出てしまう。
それを聞いた山元さんはニヤリと笑うと、今度は首筋ばかりを攻めるように狙ってキスを落とした。
「ふ、っ、...ぁ」
「白いな、肌」
「っえ...」
「こんなに白いと跡を着けたくなる。お前の恋人がそうした理由が分かるよ。」
「いっ!?山元さん!?」
「...ああ、やっぱり。赤がよく映える。」
キスばかりしていた唇が首筋を吸い上げ、それが『キスマーク』を付けたのだと分かると、一層恥ずかしさが増す。
山元さんがそんなことをするなんて、意外...いや驚きで、落ち着いたはずのドキドキはぶり返し、チクリと痛んだはずの首筋から熱が全身に広がった。
「そんな物欲しそうな顔で見るな。」
「し、してないっ」
「嘘つけ。顔、真っ赤だぞ?」
「ちがっ...違うっ!」
「違う?...まぁいい。その強がりがいつまで持つか楽しみだな。」
「は!?どういう意味、」
目が合った山元さんは、部屋に入る前と同じあの目で俺を見ていた。
ヤバい、山元さんは本気だ。
そう分かるその目。
今まで優しく絡まっていた山元さんの指に力が入ると、不安が俺を襲う。
もう戻れない、そう理解してこの部屋に入ったのに、本当にいいのか?と頭の中の俺が言う。
『暁斗さんがまだ好きなんだろ?』
『忘れようとしてるけど忘れられないんだろ?』
『山元さんとシたら、暁斗さんの所へは本当に本当に戻れないぞ?』
これでいいと決めたはずなのに、諦めたはずなのに、どうしてここまで来て悩むんだ。
なんで山元さんが『怖い』と思うんだ...?
さっきまでの熱が引いたのは一瞬だった。
俺は何をしているんだろう。
なんで山元さんに抱かれようとしてるんだろう。
どうして抱かれたら忘れられると思ったんだろう。
「や、まもとさ...」
「もう、遅い。」
その通りだ。
後悔したって遅かった。
山元さんの顔が近付いて、その唇が俺の唇に触れる距離まで近付いた時、頭に浮かんだのは暁斗さんの顔だった。
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