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「...なんてな。」 キスされると思ってぎゅっと目を閉じた俺。 だけど唇には何も触れなくて、代わりに鼻で笑うような山元さんの声が聞こえた。 「え.......?」 「生憎男を襲う趣味はない。ましてやこれからだって時に他の男のことを考えるような奴には勃つモノも勃たない。」 「........は?」 「冗談だよ、冗談。」 「............はぁぁぁぁぁ!?!?!?」 絡んだ指が離れると、山元さんはスーツを直しながらそう言った。 押し倒された俺は起き上がる気力もなくて、ベッドに寝転んだまま天井に向かって叫ぶ。 冗談?今冗談って言ったよな??? どこからどこまでが冗談? いや、ここまでして冗談ってどういうこと!? 「ちょ!!!!意味分かんない!!!なんなのマジで!!!!」 「言葉通りだ。最初から何もするつもりは無い。」 「嘘つけ!!指!あと首!キスしたじゃん!!」 「それはお前が期待するような反応するからだろう?」 「じゃあキスマーク!!!あれは!?」 「...何となく?」 「何もしないんじゃねぇのかよ!!!」 「ああ、そうか。ならば最後までするつもりはなかった、に訂正しよう。」 「却下!!!!!!!」 山元さんはすっかりいつもの山元さんに戻っていた。 あのムカつくところも苛つくところも、見事なまでに復活している。 俺に覚悟とか言ったくせに、最初からするつもりがなかっただと? ムカつく、めちゃくちゃムカつく。 今すぐ殴ってやりたい気分だけど、正直こうなったことに安堵している自分がいて、それは出来なかった。 山元さんなら、そう思ったはずなのに、俺はキスすらできなかったんだ。 怖い、嫌だ、あの瞬間そう思った。 やっぱりまだ暁斗さんを忘れたくない自分がいて、それを捨てたくない自分がいたんだ。 山元さんのこの行為によって、俺がそう思っていることを痛感してしまった。 ***** 『スーツにシワが出来る。』と、山元さんは俺に起き上がるように命令すると、何事もなかったかのようにタバコに火を着けた。 まだイライラしているけれど、山元さんにその気がないと分かるとじゃあなんでここに連れてきたのか?と不思議に思った。 俺はてっきり休日にわざわざ二人で買い物をしホテルに来る、という流れが『デート』なのかと思っていたからだ。 「...ね、最後までするつもりないのになんでホテルなの?」 「家の方がよかったか?」 「そうじゃなくて!そもそもこのスーツも!意味分かんないこと多すぎる。」 「ああ。...これ吸い終わったら分かる。待ってろ。」 「はぁ?先に説明してよ!!」 「...上司命令。」 「うるさーーーい!!!!!」 ...結局山元さんは本当に吸い終わるまで何も話してはくれなくて、やっと火を消したかと思えば鏡の前に立って髪を整えると部屋を出てしまった。 『早く』 そう一言俺に言うと、来たときと同じようにスタスタと歩き、エレベーターに乗る。   もちろん行き先は告げられず、俺はイライラしながらその後をついて歩いた。 「......な、なんじゃこりゃ....」 「質問の答えだ。」 「意味わからーーーーん!!!!!」 そして到着したのは、大きな扉の前。 ホテルのスタッフなのかなんなのか、黒いスーツの男が扉を開けると、その先に見えたのは大きすぎるケーキの塔に何人、いや何十...何百人いるんだ?ってくらいの人、人、人... 皆がスーツやドレスに身を包み、ホテルに相応しいきらびやかなその場所に唖然とした。 「お前の前に俺の補佐として働いていた奴が結婚したんだよ。その御披露目パーティーだったかな...」 「なんでそこ曖昧なの!!」 「仕事じゃないからな。記憶がない。」 「いやそれ仕事より大事でしょ!?ってかなにこれ!人多すぎる!!」 「そりゃあな、嫁さんが嫁さんだから...ああ、 始まるぞ。」 「はぁ?」 マジで意味が分からん!と言おうとした時、照明が消えて真っ暗になると、俺たちの入ったクソ広い部屋の中央辺りにスポットライトが当たる。   そしてよく耳にするウェディングソングが流れ、登場したのは馬車...?に乗った新郎新婦だった。 「...え、馬...本物...?」 「...みたいだな。」 それはもう今日一番で驚いた光景だった。 はち切れそうなドレス姿の新婦と、折れそうなくらい細い新郎、そして本物の馬... 周りの招待客が『おめでとう!』と口々にする中で俺は開いた口が塞がらなかった。 それから俺は司会者の説明でこのパーティーの意味を知ることになる。 はち切れそうなドレス姿の新婦がえらい有名な作家で、折れそうな新郎がウチの会社の営業マン、二人が結婚に至るまでの経緯、そしてここに居るのがその関係者だということを。 つまり山元さんの予定とは、この結婚御披露目パーティーのことだったのだ。

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