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Side AKITO 「別れよう、響くん。」 絶対に言いたくなかった言葉。 言われる可能性はあっても、自分が口にすることは無いとそう確信していた言葉を俺はあえて口にした。 「...っ、さよなら、暁斗さん...っ」 今にもこぼれ落ちそうな涙を、俺に背を向ける最後の最後まで堪える響くんを抱き締めたくて仕方なかった。 泣き虫で、付き合う前も付き合ってからもその涙を何度も見てきた。 その度に『この涙を拭うのは俺』だと思ってきたのに、それはもう出来ないのだと思うと、悔しくて、悲しくて、行き場のない思いが俺を苦しめる。        「京極さん... なんで本当のこと言わないんですか...!?筒尾さんは勘違いしてるのに!」 「...いいんだよ。もう、いい...。」 「良くないっ!... 二人ともまだお互いが好きなのに... っ、私のせいで... っ!」 「松原、これは俺の責任だよ。お前を庇うつもりはないけど、響くんのことに関しては最初から素直に打ち明けなかった...終わってから話そうとした俺が悪い。」   「でもっ!」 「...見ただろ?あのキスマーク。... 俺でもあんな見える位置に付けたこと無かったのに。響くんはもう俺のことなんか何とも思ってないよ。」 響くんに別れを告げられた日、俺は否定も肯定もしなかった。 『嫌だ』そうすぐに言えばよかったのかもしれない。だけどその言葉を口にする資格があるのかと迷ったせいで、俺たちが終わったのかそうではないのかはハッキリせず、一方的に振られた俺は『まだ終わっていない』と都合良く思い込んだ。 もしかしたら、まだ響くんは俺を想っているかもしれない、そんな自分勝手な希望にすがり付くように、次に会えるチャンスをずっと待っていた。  響くんのアパートに何度か行ったこともある。 だけど今更俺が会いに行って拒まれたら? そう思うと、アパートの側に車を停めて灯りの着いた部屋を眺めることしかできなかった。 だけどどうしても会いたくて、無理矢理響くんの会社に仕事を押し込んで、営業部に異動したという響くんと会う機会を作った。 どうにかして会いたい、自然な流れで、逃げられない状況で、ちゃんと顔を見たい。 ズルい人間だっていうのは分かってる。 でも俺の本性はきっとズルくて意地悪いことばかり考えるような、酷い人間なんだ。      「終わったんだよ、松原。」 「嫌だ... っ、こんなの...悲しすぎる...っ」 「...あの話、正式にキャンセルしてもらわなきゃな。」 会議室で会った日、まさか本当に響くんがここに来るとは思っていなかったあの日、俺の指にはまっていた指輪のことを響くんは気付いていただろうか。 俺の覚悟、それを伝えるより先に離れてしまった響くんに、いつか伝えたいと願ってつけ続けた指輪。 それをそっと外して、松原に渡した。 「捨てといて。」 だけどもうそれを伝える必要は無い。  響くんには、もう俺じゃない誰かが居る。 その事がハッキリ分かった。 達郎の失恋から必死に立ち直った響くんが、今度は俺の手なんて必要とせずに他の人を好きになったんだ。 大好きで、大好きで、愛しくて仕方ない人。 言葉じゃ足りないくらい俺が愛している人。 そんな響くんが掴んだ幸せを、俺が本当のことを伝えて壊してしまうくらいなら...いっそこのまま勘違いして、俺を酷い人だと思い続けてほしい。 『いい人だった』って簡単に忘れられるより、『酷い人』って何かある度に思い出して欲しい。 どうか、次に何処かで見かけたときは笑っていて欲しい。 幸せそうなあの顔で、それが俺に向けてじゃなくてもいいから笑っていて欲しい。 もう泣かなくていいように、辛い思いをしなくてもいいように。 俺が傷つけた分、悲しませた分、幸せでいて欲しい。 「大好きだよ、響くん」 もう届かない言葉、それは別れても変わることのないたったひとつの俺の思いだった。 Side AKITO end

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