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「...お前、初めから男が好きだったんだな?」 「んー、そうなのかなぁ?あ、でも女の子と付き合ったことあるよ?エッチも。」   「それは聞いていない。......それで、本当に別れたのか?京極さんと。」 「...うん。暁斗さんにも言われちゃった。別れようって...。」 出会いから別れまで、一通り話終えた俺。 山元さんは、俺の話す『暁斗さん』が誰なのか、薄々気付いていたらしい。 会うことがないだろうからって写真を見せたりフルネームを教えたことはなかったんだけど、打ち合わせで名刺交換をしたときにもしかしてって思ったんだって。 山元さんは相変わらず俺の話を無言で聞いてくれた。 相槌もないし、一方的に俺が話すだけ。 話したあとも『男が好きだったんだな』とか、そこ突っ込む?って所を聞いてくる。 ...だけどそれが嬉しかった。 山元さんらしくて、俺の知ってる優しいあの人とは違う答えでよかった。  そう思ったんだ。 「そうか。...それで?忘れられるのか?」 「分かんない。でも、忘れたい。だっていつまでも引きずるとか重たいじゃんっ」 「どうやって忘れるんだ?聞いた所じゃお前、親友のこともかなり引きずったんだろう?」 「んー...どうやってだろう...?ダッチーは暁斗さんが忘れさせてくれたからなぁ...」 「...努力する、って言うところだろう、そこは。」 車は会社の近くの道に入り、あと少しで山元さんの家に着く。 自宅に帰るつもりなんてなかった俺は、山元さんに『送らなくていい』と伝えると、山元さんは自宅の駐車場に車を停めた。    「意地悪だなーっ山元さんは!!そこは優しく俺が忘れさせてやるって言うところでしょー!?」 「はぁ?なんで俺が。そもそも俺は自分のしたいこと以外は頼まれなきゃしたくない主義なんだ。お前が泣いて頼んできたら考えてやる。」 「うわー、最低...」 「なんとでも言え。」 暁斗さんのことを思い出しながら話したはずなのに、何故か涙は出なかった。 むしろ山元さんに話すことで、もう終わった過去の話しなんだと思えて、心が軽くなった気がする。 『お邪魔します』の一言もなく、悪口を言い合いながら山元さんの家に入り、昨日の夜に戻ったかのように綺麗に敷かれ直された布団にダイブする俺はこの場所にもう慣れてしまっていた。 暁斗さんの部屋のように、第二の家だと思ってしまうほどに。 「山元さん、早く早く」 「...お前、着替えは?」 「無いよぉ、そんなの。ねー、早く、ぎゅーってして。」 「なんで。」 「いつもしてくれるじゃんっ!あれがないと寝れないーっ!」 「さっきまで飲む飲むうるさかったくせに...今度は寝る、か。腹立つやつだな...。着替えが先だ、シワになる。俺のを貸すから着替えろ。」 「めんどくさ...っ!山元さんお母さんみたいー!!」 「お前みたいな面倒なガキ産んだ覚えはない。」 面倒とか腹立つとか言いながらも、山元さんは浴衣を貸してくれて、着替えを手伝ってくれた。 浴衣なんてあの旅行以来着て無くて、夏手前のこの季節、ヒヤッとした生地が冷たくて気持ちいい。 山元さんも柄違いの浴衣に着替えると、布団に寝そべり両手を俺に広げてくれた。 ムカつく、でも優しい。 8割...いや、9割ムカつくけど、山元さんの腕の中はあったかくて居心地がいいことを、もう俺の身体は覚えている。 だからその腕の中になんの警戒心もなく飛び込めるんだ。 「山元さんの腕の中、落ち着く。」 「俺はお前の髪がくすぐったい。」 「自分からやりだしたくせに...。」 「...そうだな。俺から始めたな。」 「ね、山元さん。なんでぎゅーってしてくれるの?抱き枕感覚?」   山元さんの鼓動を感じながら、俺は不思議に思っていたことを聞いてみた。 初めてここで眠った日、俺からしがみついたってことは分かったけど、それ以降も山元さんは必ず眠るとき俺を抱き締める。 それが何故なのか気になっていた。 「なんでだろうな。...まぁ、強いていうならお前を見ているとそうしたくなるから、だろう。」 「俺を?なんで?」 「ムカつく世話の焼ける面倒な部下だけど、弱くて壊れそうでよく泣く。放っておけないんだよ。」 「なにそれ、貶してる?」 「かもな。」 弱くて、壊れそうで、よく泣く... 俺はいつからそうなったんだろう? いつからそう見えるようになったんだろう? 暁斗さんと出会ってから、自分の独占欲の強さを知って、それから人を愛する気持ちを知って、疑うことを知って、別れの悲しさを知った。   知ることが増えると同時に、たくさん泣いた。 悲しくて、悔しくて、嬉しくて、幸せで。 多分、この一年で一生分の涙を流したかもしれない。 暁斗さんのことを思い出すだけで涙が出るくらい、俺は弱くなったんだ。 「...ほら、また泣く。だから放っておけない。」 「っ、うるさいっ」 「泣き虫。」 「しょうがないじゃんっ!簡単に忘れられないんだもんっ!忘れ方が分かんないんだもん...っ!!」 「忘れ方、か。...しょうがないな、泣き虫でクソ面倒な部下の為だ。」 「はぁ!?クソ面倒って!?」 「忘れさせてやる。」 「だから!!...って、え?...今なんて... 」 「忘れさせてやるって言ったんだ。」  二人きりの部屋、俺を包む腕。 その力が強くなって、見上げた山元さんの顔はいつもに増して真剣だった。 「忘れさせてやるよ。...響。」 その言葉は、一年前俺が聞いた暁斗さんの言葉と同じ。だけど言ったのは暁斗さんじゃない、山元さんで... 山元さんの唇が、俺の唇にそっと触れた。

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