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ーーーーーーー ーーーー 「...おい響」 「はい?」 「ここは...なんだ?」 「え?見ての通りお祭りですけど?」 仕事帰りの陣と外で待ち合わせ、連れてきたのは割りと大きなお祭り会場。 ショッピングモールの壁に貼られていたポスターは、このお祭りのものだった。 ちょうど今日の夜開催され、徒歩圏内だったそのお祭りはこの辺りじゃ有名で、出店もたくさん出ていて賑わっていた。 「今日は俺の奢り!だから好きなもの食べて!」 「は?なんで...」 「いいから!何食べる?焼きそば?たこ焼き?あ、俺りんご飴食べたい!!」 「おい!ちょっと待てっ!」 俺の考えたプレゼント、それはこのお祭りで陣を楽させることだった。 本当はちゃんとしたレストランとかで食事をって思ったけど、そんなお店は当日予約なんかできないし、かと言って手料理は時間的に難しかったし、どうせなら楽しめるお祭りに行こうって決めたんだ。 三木さんの話を聞いて、たまには陣に何もせずただ楽しんで欲しい、そう思ったから、あえて形のあるモノを送るんじゃなくて記憶に残るモノにした。 初めはいきなりこんな所に連れてこられて戸惑っていた陣だけど、徐々にお祭りの雰囲気に飲まれるように笑うようになって、年甲斐も無く射的で競ったり、子供に混じって金魚すくいをしたり、お祭り価格のお高い缶ビールを飲んだり... いつの間にか本来の目的を忘れ、俺は陣と一緒のお祭りを楽しんでいた。 「響、ソースついてる」 「ん、」 「それ食べたらかき氷行くぞ。あとカステラも。」 「食べ過ぎじゃない?」 「いいんだよ。祭りなんてもう随分来てないし、それにお前の奢りだしな。ほら、早く食べろ。」 「...はぁい。」 子供みたいな、キラキラした陣の目。 ...よかった。楽しそう。やっぱりお祭りにしてよかった...。 あとは時間になったら場所を移動して、最後のアレを見れば... 「響!早く!」 「ちょ!待って...っ!」 たこ焼きを頬張る俺の腕を引いて、『我慢出来ない』と言わんばかりにかき氷の屋台に走る陣は顔をくしゃくしゃにして笑ってた。 ...その笑顔にキュンとして、可愛いと思ったのは内緒の話。 ***** それからしばらく屋台を回ってから、会場の側の高台に陣を連れて行った。 実はこのお祭りの最後に花火が上がるらしくて、ここからならゆっくり花火を見れる、とお祭りですれ違った人が話していたのを聞いたんだ。 「ここは何処だ?まだカステラ食べてないんだが。」 「...食べ過ぎでしょ。もうちょいしたら分かるから待ってて。」 「嫌だ。」 混んでたら場所取りしなきゃ、と思った俺は花火の時間より早めにここに移動した。 まだ食べる、という陣を無理矢理引っ張ってきたから、陣は不満そう。だけど会場に戻ってまたここに移動するとなると間に合わなさそうだし、どうにかして花火の時間までここに居なきゃならない。 「カステラは後で買ってあげるから!ね!」 「嫌だ。」 「じゃあ...あ、わたあめも買ってあげる!」 「別にわたあめは欲しくない。戻るぞ。」 「~~~~っ、じゃあ!陣の欲しいものなんでも買ってあげるから!もう少し待って!」 「...なんでも?」 「うん!カステラもかき氷もりんご飴も、なんでもいいから!」 「物じゃなくてもいいのか?」 「いいよ!!とにかくなんでもいいからここに居て!!!」 何とか花火まで持たせたくて、俺は必死だった。 何だかんだ買ったり遊んだりしたせいでお金はそこそこ使ったけど、まだ財布にはお札が何枚か残ってるし、多少無理しても今日くらい大丈夫なはず。 それに花火のあとに『おめでとう』を言おうと思ってたから、絶対花火は見たいんだ。 「...絶対か?」 「うん!絶対!!」 「なんでも、だぞ?」 「屋台のモノ全部とかじゃなきゃ大丈夫!」 俺の必死の策、『なんでも買ってあげる発言』は陣に効いたらしく、そわそわしていた陣は急に落ち着いて、近くにあったベンチに座った。 ...よし、これなら大丈夫。 あとは花火までの時間を適当にやり過ごせば...何とかなる。 「なぁ、それは今言ってもいいのか?」 「え?あ、まぁ...別にいいけど?」 「そうか。」 「もう決まってるの?あ、もしかしてまた射的?さっき俺に負けたの気にしてる?」 「いや、そんなことどうでもいい。お前も座れ。」 「どうでもいいって...素直に悔しいって言えばいいのに。」 はぁ、とため息をつきながら俺は陣の横に座った。 真夏の暑さで汗がじわりと滲む中、ここで待つのは辛いかなぁと思ったけど、意外と風が通る場所だった。 冷たくはないけれど、まぁまぁ心地いい風を感じながら早く花火が始まらないかと空を見上げる。 「響。」 「なにー?」 「欲しいもの、言ったぞ。」 「はぁ?聞こえないし!何が欲しいって...」 「だから、響。響が欲しい。」 「........っ!?」 空を見ていたはずなのに、急に陣の顔がそれを遮って、俺が言葉を返すよりも先に陣の唇が俺の唇に重なった。

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