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なんで、どうして彼女がここにいる...? 真っ直ぐ俺の目を見る松原と、動揺を隠せない俺。 受付のお姉さんは松原を俺の来客だと思っているらしく、俺の様子を不思議そうに見ていた。 松原の職場...暁斗さんと、ダッチーの働くあの出版社とはクリファンの企画で繋がってはいたものの、今は打ち合わせも落ち着いていて、この先の予定はまだ決まっていなかったはず。 だから、松原がここに居る理由が分からなかった。 俺を指名し、わざわざ俺の前に現れる理由が...。 「...そんなに警戒しないで下さい。私はただ、筒尾さんにお話したいことがあるだけです。」 「俺に...話したいこと...?」 「...ここだと人目が気になります。外、出れますか?」 俺だけに聞こえるよう、小声でそう言った松原。 営業部では外出は頻繁にあるから、絶対に許可を取らなきゃいけない訳じゃない。 だけど相手が松原晶だ。もし、一緒に居るところを誰かに見られたら...それが陣だったら、変に疑われるかもしれない。 「外出許可取ってきます。少し、待ってて下さい。」 そう考えた俺は、一度戻って主任である陣に外出許可を取ることにした。 『17時から来客予定がある』そう予め知っていた陣は、先方が早めに来たと思ったのだろう、特に何も言わず外出許可を出し、そして『先に帰って準備しておく。』と耳打ちした。 本当は陣の思っている来客対応なんかじゃない。電源に出たのは俺で、日程変更したことを知っているのは俺しか居ない。 俺だけが、この外出が個人的なものだと分かっていて、陣に嘘を吐いた罪悪感が胸をいっぱいにする。 だけど、あの松原の目が、松原の話したいことがどうしても気になって、俺は足早に玄関に戻った。 「...で、どうしたらいい...ですか?」 「敬語は使わなくて大丈夫です。多分、筒尾さんの方が年上なので。」 「...分かった。」 「出来れば誰も居ない...二人きりになれる所がいいです。」 「二人きりって......」 「誰にも、筒尾さん以外誰にも聞かれたくないんです。」 「......」 二人きりになれる場所、それは都会では難しいことだった。 カフェも、ファミレスも、公園だって人が居る。打ち合わせは大抵どちらかの会社でしていたし、稀に外でしたとしてもここまで人目を気にされたことはない。 でも、俺も松原と一緒に居る所を誰かに見られることは避けたかった。 もうすぐ定時を迎え、陣を含めた社員の大半が帰路に着く。となればこの周辺で目撃される可能性は高い。変な噂が流れでもしたら困る。 そうなったら何処がある? 二人きりで、周りの目を気にしなくてもいい場所... 「...少し歩くけど...それでもいい?」 「はい。大丈夫です。」 考えた末俺の頭に浮かんだのは、しばらく帰って居ない自分のアパートの部屋だった。 ***** 「...最近帰って無かったから汚いけど...」 「気にしません。お邪魔します。」 会社から徒歩圏内とは言えど近くはないアパート。 ウチの社員が近くに住んでいることもないし、陣が定時で上がっても直帰すると分かっているからここを選んだ。 二人きりで、人目を気にせず話せる空間。 それはもう個人の部屋だと思ったのだ。 俺自信久しぶりに入った部屋は、とてもじゃないけど綺麗とは言えなかった。 女の子が埃っぽい部屋に入ることを拒みたくなるような、じめっとした空気。 それでも松原は躊躇いもなく靴を脱いで部屋に上がった。 「...本当に帰ってないから何も無くて...あったかい飲み物なら出せるけど...」 「気にしないで下さい。私は筒尾さんとお話するためにここへ来たんです。」 「......」 「筒尾さん、今から私が話すこと...ちゃんと最後まで聞いて下さい。お願いします...。」 狭い部屋のベッドを背もたれにし、並んで座る松原は声を震わせながらそう言った。 何を話すのか...なんとなく、なんとなくだけど分かる気がするのはその声のせいなのだろうか。 『分かった』と俺が答えると、松原は静かに話し出した。

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