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7-22
朝方陣の家に戻った俺は出た時と同じ体勢で眠る陣の横に、背を向けるようにして寝転んだ。
どうしたらいいか、なんてもう悩まない。
俺は陣を選んだ、だからここに居る。
そう思っているのに、何故か涙は止まらない。
このままじゃ陣を起こしてしまうかもしれないのに、なのに涙は溢れてくるばかりだった。
暁斗さんの気持ち、俺が知らなかった本当のこと、それを今知ったからと言って陣と別れるつもりはなかった。
だってそんなの都合良すぎるだろう?陣は俺の辛いときに側に居てくれたのに、俺は全部を知ったからって簡単に陣を切り捨てるのか?
...そんなの出来ない。出来ないから辛さが増した。
「...おかえり。」
「っ!?」
だけど寝ていると思っていた陣は、俺を待っていたかのようにそう言った。
バレていないと思ったのに、その言葉は俺が外に出ていたことを知っているという証拠...。
「じ...ん...」
「遅かったな。...いや、早かったのか?」
「なんで...っ、寝てたんじゃ...」
「狸寝入りも見抜けないのか。まだまだだな。」
陣は最初から寝てなんかいなかったんだ...
そう気付くと、俺は陣に『隠し事』をしてしまった自分に後悔をする。
陣を裏切った、暁斗さんと会っていたことを先に伝えずに会いに行った自分を。
「...響。もう一度、ちゃんと話をしよう。」
陣はそう言うと、身体を起こして布団の上に座り直した。
くしゃくしゃにシワの着いたスーツのことなんて、全く気にしないまま。
「京極さんとはちゃんと話せたか?」
「...」
「話せなかったのか?」
「...話は、聞いた」
「お前は何も言わなかったのか?」
「...酔ってたから...多分、俺に気付いてない...」
陣は俺が暁斗さんと会っていたことを知っていた、という口振りで質問をした。
俺は『なんで知っているの』と聞きたい気持ちを抑えてその問いに答えることしか出来ない。
「それで?その話を聞いて、お前はここに戻ってきたのか?」
「...うん」
「何故」
「陣と...一緒にいるって...決めたから」
陣の声は優しくなんてなかった。
俺を責めるような、強くて重たい声。
怒っているのとは違う、取り調べのようなそんな声だった。
「なんで?なんで俺と居ると決めたんだ?」
「...っ、だって!俺が今付き合ってるのは陣だしっ、それに陣を好きになるって決めたから!」
「それは同情か?それとも妥協か?」
「ち...っ、違う!そんなんじゃ」
「じゃあ今お前が泣いている理由はなんだ?誰を想って泣いているんだ?」
『誰を想って』
そう言われた瞬間、俺は気付いた。
俺がなんで泣いているのか。なんで涙を堪えられないのか。
...それはもう暁斗さんの所に戻れないから。
暁斗さんのことを知って、どうしようもなくて、辛くて、だから涙が止まらなかった。
「...なぁ響。お前は俺を好きにはならないよ。この先も、ずっと。」
「そんなこと...!」
「絶対に。お前は京極さんのことだけを想っている、そうだろう?」
「...っ!」
陣を好きになろうと思った。
陣なら好きになれると思った。
...だけど、陣を知れば知るほど気持ちは薄れて、暁斗さんの本音を聞いて、俺が今好きだと言える人は一人しか居なかった。
「俺は本当にお前が好きだよ。支えたい、頼られたい、守りたい。泣かせたくないし、涙は拭ってやりたい。それがお前の幸せに繋がると思っていた。」
陣の口調が優しくなる。
そして陣の言葉が切なく感じて、遠くなる気がしてしまう。
もう話さなくていい。これ以上は何も言わなくていい。
俺って最近予知能力でもあるのかな?陣の言うことが分かる気がするんだ...。
「だけど違うな。俺が想うだけじゃダメなんだ。想い合ってないとダメなんだ。...お前は泣いても辛くても、俺と一緒に居るんじゃ幸せになれないんだ。」
「っ、そんな...っ!陣の思い込みだよ!」
「違う。お前だって分かってるだろう?お前の心に居るのは誰か。誰に側に居て欲しいのか、誰と一緒に居る時が幸せなのか。...もう、素直になっていいんだ。忘れようとしなくても、意地を張らなくてもいいんだよ、響。」
「陣...、」
「...お前が好きなのは、誰だ...?」
視界がぼやける。陣の顔がちゃんと見えない。
あんなに俺を縛るようにしてきたのに、なんで今は手放そうとするんだ。
俺を大切にするって言ったのに、なんで優しい声でそんなこと聞くんだ...。
「...っ、ごめ...っ、ごめん...陣っ、ごめん」
「謝るな。俺が惨めな気持ちになるだろう。」
「だけどっ」
「いいよ。俺はお前が一番大切だから。だから大切な人が不幸せになることが嫌だったんだ。...最初はそれでもいいと思っていたけどな。だけどやっぱり違ったよ。お前の笑った顔が見たい。」
「陣...っ、」
「...響、『上司命令』だ。お前が好きなのは、誰だ?」
俺の答えで、陣との関係は元に戻る。
そう分かっていて陣は俺にわざとらしく『上司命令』と言ったんだろう。
...優しい陣の、優しい意地悪。
「俺は...っ、暁斗さんが好き.......」
そう答えると、陣は優しく微笑んでくれた。
『やっと素直になったな』...そう言うように。
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