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Side AKITO ② 「な...んで......」 早朝、弥生の部屋、二日酔いで痛む頭... これは夢?夢なのか? そうとしか思えないタイミングで姿を現したのは、目の腫れた響くんだった。 「...話を、しにきた」 なんで、どうして、恋人がいるんだろう?なのに何故ここへ来た? 俺とはもう終わっていて、あのキスマークを残した相手と幸せに過ごしているんだろう? 震える声で『話をしにきた』と言った響くんは、少しずつ俺の側に近寄った。 「お願い、暁斗さん。俺は暁斗さんの気持ちを全部知りたい。話を全部聞きたい。」 「...なんで......っ、」 「俺は...っ!暁斗さんの気持ちを知らなくて.. っ、勝手に勘違いして...っ暁斗さんを傷付けた...」 「違っ...!それは俺が、俺が響くんに話さなかったから!」 「俺は知らない!その話を、俺だけが知らない!...だから納得出来ない。このままじゃ、誰とも幸せになれない。ずっとモヤモヤして、気になってる。だから俺が幸せになって欲しいなら、ちゃんと話して...っ!」 ポロポロと涙を溢す響くんは搾るように声を出してそう言った。 弥生の姿はいつの間にか消えていて、リビングには俺と響くんだけ。  きっとさっきの弥生の言葉は、こうなることを想定した上での質問だったんだ。  妄想でもなんでもない、俺に響くんと話をさせるため...。 もうこれ以上、俺だけ格好付ける訳にもそうさせるつもりもないってことなのだろう。 泣き続ける響くんを前にしたら、ここが限界だったのだと思ってしまった俺は、酔いながら弥生に話したことを響くんに話した。 ーーーーー ーーー 「...言えなくて、ごめん。ずっと言わなきゃって思ってたけど...タイミング逃してたんだ。」 「......」 「響くんに新しい恋人が居るのは知ってる。だから別れてからは尚更言えなくて、というより言う必要もないかと思ってたんだ。」 「......」 「本当に、ごめんね。」 「...それだけ?」 「え?」 「それだけ?暁斗さんが言いたいのは、本当にそれだけなの?」 俺が響くんに話せたことは、松原が女だったということに関することだけ。 それ以外の俺の気持ちに関しては話せる勇気が無くて、口に出来なかった。 なのに響くんはまっすぐ俺の目を見て『それだけ?』と聞いてくるのだから困った。 知らないはずの俺のあの気持ちを、まるで知っているかのように次の言葉を促す姿は俺の知らない響くんだった。 「俺、どんな暁斗さんでも暁斗さんだって思ってる。」 「ひ...びき...くん...?」 「だからお願い。隠さないで。本当の暁斗さんの気持ちを教えて」 「っ!」 「俺が仕事ばっか夢中になってた時、暁斗さんは寂しかった?」 「な...っ!?」 ...ほら、やっぱりこんな響くん、俺は知らない。 いつも何だかんだで俺が最後に言い負かすのに、今日の響くんはその隙も与えないような『強気』を纏っているんだ。 「教えて、暁斗さん...っ」 「.......」 「教えてくれるまで、俺暁斗さんの側から離れないから。」 「ちょ!?響くん!?」 「この手も離さない。」 「......っ、......はぁ...。何なんだよ、もう...」 強気も強気、俺の手を握ってくる響くんにドキンと心臓が跳ねた。 久しぶりに触れた手、しかもそれが響くんからだと言うのだから仕方ない。 恋人がいるのにこんなこと、と思いながらも素直に嬉しいと感じてしまう自分が居て、そして今日の響くんからは逃げられないと感じた俺は不覚にも泣きそうになる。 ああ、やっぱり無理なんだな。 もう俺が格好付けることは許されないんだ。 俺の気持ちを話したら、響くんのモヤモヤは消えて今の恋人と幸せになれるならそれでいいじゃないか。 今の俺に出来ることはそれくらいしか無いのだから。 「分かった。分かったよ、もう...。」 「っ!」 「その代わり...お願い聞いてくれる?」 「お願い?」 「響くんにも、響くんの恋人にも悪いけど...いやきっとダメなことだけど...」 俺はやっと全てを話す覚悟を決めた。 いつの間にか強くなった響くんに負けたのだ。 だけどどうしてもこのまま顔を見て話すことが出来なくて、俺は響くんに無茶なお願いをしてしまう。 ...そんな俺はダメ人間。最低なことをしていると分かっているのに、俺のお願いを聞いた響くんが縦に首を振ると、そっと響くんを抱き締めた。 Side AKITO end

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