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「こんなこと言って...困らせるって分かってる。だけど俺は響くんが大好きで響くんしか要らなくて、響くんとこれから先ずっと一緒に居れたらそれで良いって...こんなこと思うのは人生で初めてだったんだ。
だから嫌われたくなくて、こんな理由で指輪を渡そうとしたとか格好悪いし独占欲丸出しだし、ずっと言えなかった。ううん、言わないつもりだった。
響くんの中で、別れても俺は『頼れる大人な暁斗』で居て欲しいと思ってしまった。
ずっと隠そうって、嫌われるくらいなら、失望されるくらいなら響くんには言わなくいいって...そう、思ったんだ。」
そこまで暁斗さんは言うと、抱き締めていた腕の力を弱めた。
すぐにでも解けてしまいそうな暁斗さんの腕は、きっと話終えたということを示していたんだろう。
ーーだけど、俺は話を聞いただけで終わらすつもりなんてない。
だってここまで聞いて分かったのは、暁斗さんは俺に嫌われたくなくて本当の事を言えなかったってこと。
松原とは付き合ってなくて、あの日松原が俺に渡した箱の中身を渡すために、サプライズしようと思って隠してたってこと。
今の話を聞いたら、暁斗さんは俺をまだ好きで居てくれてるってこと...そうじゃないのか?と勝手に思い込んでしまうほど、暁斗さんは俺のことばかり考えていた。
「これで、響くんはちゃんと恋人と幸せになれるかな...?」
そんなのなれっこない。
陣とはさっき別れたんだ。
俺がいつまでも暁斗さんを忘れられなかったから。
自分で決めたのに、どうしても暁斗さんが好きだって気持ちを消せなくて、最後の最後で陣にそれを気付かされたんだから。
「話、聞いてくれてありがとう。...お願いも、聞いてくれてありがとう。多分もうこうやって会うことはないだろうから、最後にちゃんと話せて良かった。」
最後になんてさせない。
俺は、まだ暁斗さんに伝えていないのに、一人だけ喋って完結なんてさせない。
「大好きだったよ、響くん」
そんな過去形の言葉なんて、欲しくない...
そう思ったら、身体は勝手に動いていた。
*****
Side AKITO
「大好きだったよ、響くん」
言ってしまった。
気持ちを過去形にして、これが最後の『大好き』を、言ってしまった。
柄にも無く泣きそうになるのを堪えて話す俺は、とてもじゃないけど顔を見て話すことなんて出来なくて、顔が見えないように響くんを抱き締めていた。
でもそれももう終わり。響くんは恋人の元に戻さなきゃいけない。
これが2人の喧嘩の種にならないといいな、と心配しながら腕の力を弱めたけれど、響くんはピクリとも動かなかった。
「.........つき」
「え?」
「暁斗さんの、嘘つき!」
「響く、っん!?」
そんな響くんが大声を出したと思った瞬間、俺の唇は何かによって塞がれていた。
ーーそれは忘れもしない、響くんの唇の感触。
甘くて柔らかくて、俺の大好きなキス。
「大好きだった?なにそれ!まだ嘘つくの!?」
「...え...響くん...?」
「なんで過去形にするの!まだ俺のこと好きなんでしょ!?」
「そ...れは...!響くんのことを思って!もう恋人が居る響くんをいつまでも思い続けるなんて迷惑だろ!?」
「迷惑じゃない!!」
「迷惑だろ!!響くんにも、響くんの恋人にも!」
「違う!!!」
キスはあんなに優しかったのに、口を開いた響くんは怒っていた。
いや、興奮していたのか?
あまり見ないその姿と言葉に、俺もつい本音で言い返してしまう。
こんなこと言っちゃダメだ、そう分かっているのに、もうセーブすることなんて出来なかった。
「...じゃあまだ好きだって言っていいの?別れても忘れられない、後悔してる、響くんに幸せになって欲しいけど他の人となんて嫌だって、言っても困らないの?」
「ならない。」
「本当は取り戻したいって、今すぐにでも奪いたいって思ってるって言っても?」
「...うん」
「ねぇ、それ本気?本気なら俺本当にそうするよ?いいの?」
「......うん...っ」
そしてそこまで言ってようやく気付く。
響くんが笑っていることに。
笑いながら、何故か嬉しそうに涙を流していることに。
「暁斗さんの、本音なんだよね...?」
「......」
「それは...格好付けてない、暁斗さんの本当の気持ちなんだよね...?」
「......そう...だよ...」
なんでそんな顔で泣くんだ?
なんで俺に期待を持たせるような言葉を返すんだ?
なんで、なんで、なんで...
「...ありがと、暁斗さん」
なんでこんな俺に『ありがとう』なんて言葉、言えるんだ...?
もう何がなんだか分からない。
自分のことも、響くんのことも、今の状況も。
久しぶりに触れた響くんの感触が嬉しい気持ちと、変に期待させられるようなモヤモヤしたこの感覚。
そして遂に言ってしまった俺の弱い本音。
全部がぐちゃぐちゃに混ざって、頭が痛くなる。
「暁斗さん!?」
そういえば俺、結構飲んだ後だったよな。
二日酔いのせいでこんなに気持ちが悪いのか?
響くんの声は遠くの方で聞こえたけれど、それに返事をする気力がない。
意識はどんどん遠くなって、身体は重たくなるばかり。
そしてそのうちぷっつりと俺の意識は途絶えて、目を覚ますと俺を心配そうに覗き込む響くんの顔がそこにあった。
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