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中華料理2
「佐和?」
「ん?……ひぇッ!?」
ふいに背後から呼び止められて、佐和は振り返った。そして、お化けでも見てしまったかのように硬直した。
立っていたのは組長の竜蛇だったからだ。
佐和は目を見開き、口をあんぐりと開けて、竜蛇を凝視した。
「俺の顔に何かついてる?」
そんな佐和の反応に対して、面白そうに竜蛇が聞いた。佐和はハッとして、
「ご、ごごごくろうさまですッ!」
慌てて大きくお辞儀をした。
「ちょっと。目立つから頭をあげて」
「いいいええ、そんな!」
脂汗をダラダラとかき、まさに蛇に睨まれた蛙だった。竜蛇は別に睨んだりしていないのだか……。
竜蛇は佐和にとって雲の上のお人だ。
強くて、頭がよくて、怖くて、侠気がある。
佐和の憧れの存在だ。
「いつもいつも言っているでしょうが! 勝手な行動は慎んでくださいよ!」
「ごめんね。須藤」
車を適当な路肩に停めて、慌てて須藤が追いかけてきた。相変わらず気苦労が絶えない男だ。
「須藤さん!」
「おお。佐和」
「佐和さ~ん」
少し遅れて、鉄平もやってきた。
「て、鉄平くん!?」
「あの夜はありがとうございました」
鉄平が深々と佐和に頭を下げたので、佐和は慌てて首を左右に振った。
「いやいや。なんにもしてないって。頭をあげてくれよ。志狼さんとはうまくいってるのかい?」
「はい!」
「そっか。よかった」
佐和は厳つい顔に人懐っこい笑顔を浮かべた。そんな二人のやりとりをじっと見ていた竜蛇は佐和に聞いた。
「佐和。晩ご飯は食べた?」
「えっ? い、いえ。まだです!」
「そう。ついておいで」
「えっ!?」
竜蛇は踵を返し、スタスタと車に戻っていく。
須藤は竜蛇のきまぐれにため息をついた。
「……佐和。組長の飯に付き合え。今日は中華だ」
佐和は突然の事に挙動不審になり、すっとんきょうな声を上げた。
「えっ? えっ!? なんで? えええ!?」
「佐和さんも一緒に食べるの? 嬉しいなぁ」
鉄平だけが呑気にニコニコと笑っていたのだった。
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