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中華料理4
「遅れてすまん」
注文した料理が出される前に、志狼が個室に入ってきた。
「やあ。志狼」
「しろう。お疲れさま」
「タマ」
志狼は柔らかい表情を浮かべて、鉄平のアッシュグレイの髪に軽くキスをした。
遅刻常習犯の志狼にしては早い到着だ。
竜蛇との約束なら、多少遅れてもかまわないが、今夜は鉄平も待っている。
だから、志狼はできるだけ急いで来たのだ。
「お、佐和じゃないか」
今気付いたという風に、志狼は佐和を見た。ずっと同じ個室にいたのだが、鉄平だけを見ていたようだ。
「志狼さん。どうも」
苦笑い気味の佐和は、ぺこりと志狼に軽く会釈した。だが、逆に緊張の糸が解れた。佐和はようやく肩の力を抜いた。
「偶然見かけてね。タマちゃんが世話になったって言ったから、連れてきたんだよ」
「あの時は悪かったな」
「いえいえ」
佐和のおかげで、雨降って地固まるとなった志狼と鉄平は、今まで以上に蜜な関係になっていた。
全員揃ったところで、タイミング良く料理が運ばれてきた。
「さ、食べようか」
竜蛇が優雅な微笑を浮かべて言った。
高級中華なだけあって、料理はどれも絶品だ。
鉄平は美味しそうにモグモグと頬っぺたを膨らませて食べて、そんな鉄平のことを志狼は蕩けるような甘い顔で見ていた。
気さくな竜蛇だけでなく、こんな志狼の顔を初めて見た佐和は「天変地異の前触れかよ」と、心の中で独り言ちた。
「お前んとこの犬はどうなんだ?」
紹興酒を呑みながら志狼が竜蛇に聞いた。
「最近、やっと懐いてきてね。本当に可愛いよ」
佐和が「犬?」と小さな声で呟いたので、鉄平が佐和に教えてあげた。
「たつださん、虐待されてた犬を保護したんだって。優しいよね」
志狼は思わず「いや。犬といっても人間の男で、拉致監禁してSM調教してんだぞ。この変態は」と、言いそうになったが、無邪気な鉄平のために何とか耐えた。
「へぇ。優しいんですね」
鉄平と同様、動物の犬だと思った佐和も竜蛇の意外な優しさに胸を打たれた。
竜蛇は否定もせず微笑んでいるし、須藤だけが複雑な表情で二人を見ていた。
竜蛇と志狼は紹興酒をぐいぐい呑む。
佐和もご相伴にあずかったが、緊張しているせいか、いつもより早く酔ってしまった。
ちなみに須藤は下戸とまではいかないが酒は弱いので、烏龍茶を呑んでいる。
鉄平はデザートの杏仁豆腐を食べていた。
「うまいか? タマ」
「うん。ひとくちいる?」
鉄平がスプーンに杏仁豆腐をのせて、志狼に「あーん」をやった。
志狼は口を開けて、鉄平に「あーん」してもらっている。
……うっわぁ。甘々だ。
まるで新婚さながらの甘々っぷりの二人を、佐和はガン見してしまう。
志狼ファンの男娼どもが卒倒してしまいそうだ。
竜蛇も「相変わらずお熱いことで」と、デレた顔の志狼を見て苦笑していた。
志狼との友人関係は長いが、こんな志狼は初めてだ。
鉄平のことを甘やかしながら、志狼も鉄平に甘やかされている。
穏やかな志狼の表情に竜蛇は嬉しく思う。
ずっと強くて孤独だった志狼が、弱さを見せる相手を見つけた。落ち着く居場所を得たのだ。
志狼のデレデレとした顔を肴に竜蛇は上等の紹興酒を呑んだ。
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