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須藤と佐和
「俺はこいつを送ってきます」
ベロベロに酔っ払った佐和に肩を貸しながら、須藤が竜蛇に言った。
「そう。少し飲ませすぎたかな。佐和、ゆっくり休んでね」
「はい!」
佐和は竜蛇の言葉にしっかりした返事をしているが、足がぐにゃぐにゃだ。
「佐和さん。おやすみなさい」
「佐和、気をつけてな」
志狼と鉄平は竜蛇と一緒に車に乗り込んだ。鉄平は少し心配そうに佐和を見ていたので、須藤は笑ってみせた。
「ただの酔っ払いです。気にしないでください」
竜蛇達の車が走り出した。須藤は車が見えなくなるまで見送った。
「よっ。ほら、しっかり歩け」
佐和の腕を肩にかけ、タクシーを拾いに道路の向こうに渡った。
竜蛇は佐和も送るつもりだったが、ここまで酔っていては、車の中で吐かれでもしたら大変だ。
須藤はタクシーに佐和を押し込み、自分も乗った。目的地を告げ、タクシーは走り出した。
佐和の住んでいるのは、蛇堂組が所有するマンション……というよりはボロアパートと呼ぶべき古い建物のワンルームだ。
組の若い連中や稼ぎの少ない男娼が住んでいる。
「おい。何号室だ?」
「……505れす」
須藤は佐和に肩を貸して、引きずるようにエレベーターに乗った。ギシギシと年寄りの関節のような音を立てて、エレベーターが上がっていく。
5階に到着した頃には、佐和は半分夢の中だった。
須藤は佐和を担ぎ上げて505号室に入り、ベッドにその体を放った。安物のベッドが大きく軋んだ。
須藤は簡易キッチンで水をコップに入れて「おい。水だ」と、佐和の頬をぺちぺち叩いた。
「……はい」
須藤の手を借りて、ぐらぐらする頭をなんとか起こした佐和は、ごくごくと水を飲んだ。
「すみません……」
「組長の気まぐれに付き合わせたからな」
須藤は酒を飲まないので、竜蛇と志狼に付き合って、代わりに佐和が飲んでいたのだ。佐和は緊張して悪酔いしてしまったのだろう。
「俺……がんばります」
「ん?」
「なんか、志狼さんや鉄平くんと一緒にいる組長は、意外でした」
「……ああ」
志狼や鉄平だけでなく、こんな下っ端の佐和にまで竜蛇は気さくに話しかけた。
竜蛇が優しいのは強いからだ。
弱い者ほど余裕がなく、自分より弱い者を叩く。
佐和の父親は弱い男だった。外では他人の顔色を伺い、家では母や幼い佐和を殴った。
ゆったりと構え、悠然としている竜蛇は強い獣のようだ。
抗争の時には、竜蛇自ら先陣を切って敵対している奴らにぶつかる。逃げも隠れもしない。
竜蛇は昔の任侠映画に出てくる極道のように、一本筋の通った極道だった。
強くて、怖くて、雲の上のお人だ。
「やっぱり、組長は俺の憧れです」
「うちの組は、学や人種は関係無い。実力が全てだ。認められれば、上へいける」
須藤は佐和の頭をくしゃりと撫でた。
「這いあがってこい」
「……」
佐和はすやすやと穏やかな寝息をたてていた。須藤は小さくため息をついて、佐和の体に布団をかけてやる。
出ていこうとして、散らかった部屋に目を止めた。
───まったく。男の一人暮らしとはいえ、洗濯物くらい畳んだらどうなんだ。雑誌もあちこちに読み捨てるんじゃなく、まとめておけばいいのに。
ついつい山積みの洋服を畳んでしまい、はっとした。
「なにをやってるんだか……」
ぽりぽりと頭をかいて、須藤は部屋を出ていった。
翌朝、二日酔いの佐和は、少し片付いた部屋を見て不思議に思うのだった。
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