6 / 12

須藤と佐和

「俺はこいつを送ってきます」 ベロベロに酔っ払った佐和に肩を貸しながら、須藤が竜蛇に言った。 「そう。少し飲ませすぎたかな。佐和、ゆっくり休んでね」 「はい!」 佐和は竜蛇の言葉にしっかりした返事をしているが、足がぐにゃぐにゃだ。 「佐和さん。おやすみなさい」 「佐和、気をつけてな」 志狼と鉄平は竜蛇と一緒に車に乗り込んだ。鉄平は少し心配そうに佐和を見ていたので、須藤は笑ってみせた。 「ただの酔っ払いです。気にしないでください」 竜蛇達の車が走り出した。須藤は車が見えなくなるまで見送った。 「よっ。ほら、しっかり歩け」 佐和の腕を肩にかけ、タクシーを拾いに道路の向こうに渡った。 竜蛇は佐和も送るつもりだったが、ここまで酔っていては、車の中で吐かれでもしたら大変だ。 須藤はタクシーに佐和を押し込み、自分も乗った。目的地を告げ、タクシーは走り出した。 佐和の住んでいるのは、蛇堂組が所有するマンション……というよりはボロアパートと呼ぶべき古い建物のワンルームだ。 組の若い連中や稼ぎの少ない男娼が住んでいる。 「おい。何号室だ?」 「……505れす」 須藤は佐和に肩を貸して、引きずるようにエレベーターに乗った。ギシギシと年寄りの関節のような音を立てて、エレベーターが上がっていく。 5階に到着した頃には、佐和は半分夢の中だった。 須藤は佐和を担ぎ上げて505号室に入り、ベッドにその体を放った。安物のベッドが大きく軋んだ。 須藤は簡易キッチンで水をコップに入れて「おい。水だ」と、佐和の頬をぺちぺち叩いた。 「……はい」 須藤の手を借りて、ぐらぐらする頭をなんとか起こした佐和は、ごくごくと水を飲んだ。 「すみません……」 「組長の気まぐれに付き合わせたからな」 須藤は酒を飲まないので、竜蛇と志狼に付き合って、代わりに佐和が飲んでいたのだ。佐和は緊張して悪酔いしてしまったのだろう。 「俺……がんばります」 「ん?」 「なんか、志狼さんや鉄平くんと一緒にいる組長は、意外でした」 「……ああ」 志狼や鉄平だけでなく、こんな下っ端の佐和にまで竜蛇は気さくに話しかけた。 竜蛇が優しいのは強いからだ。 弱い者ほど余裕がなく、自分より弱い者を叩く。 佐和の父親は弱い男だった。外では他人の顔色を伺い、家では母や幼い佐和を殴った。 ゆったりと構え、悠然としている竜蛇は強い獣のようだ。 抗争の時には、竜蛇自ら先陣を切って敵対している奴らにぶつかる。逃げも隠れもしない。 竜蛇は昔の任侠映画に出てくる極道のように、一本筋の通った極道だった。 強くて、怖くて、雲の上のお人だ。 「やっぱり、組長は俺の憧れです」 「うちの組は、学や人種は関係無い。実力が全てだ。認められれば、上へいける」 須藤は佐和の頭をくしゃりと撫でた。 「這いあがってこい」 「……」 佐和はすやすやと穏やかな寝息をたてていた。須藤は小さくため息をついて、佐和の体に布団をかけてやる。 出ていこうとして、散らかった部屋に目を止めた。 ───まったく。男の一人暮らしとはいえ、洗濯物くらい畳んだらどうなんだ。雑誌もあちこちに読み捨てるんじゃなく、まとめておけばいいのに。 ついつい山積みの洋服を畳んでしまい、はっとした。 「なにをやってるんだか……」 ぽりぽりと頭をかいて、須藤は部屋を出ていった。 翌朝、二日酔いの佐和は、少し片付いた部屋を見て不思議に思うのだった。

ともだちにシェアしよう!