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第4話
「…ツカサ、彼氏を叩くとは随分お転婆だな…そういうプレイか?」
「誰が彼氏だ!そういうプレイとか知らないし!…ってか、は?…お前、ゼロか?」
そうだ、漆黒の影騎士のゼロだ。
なんで?なんで俺、夢から覚めないの!?
頬をギュッと抓ると痛い…この痛みは本物!?
今までの感覚は寝相のせいだから夢だと思っていたのに、もし違ったら…
異世界トリップという奴か!
意外と受け入れていた…ちょっとこういうのに憧れてたし…
いつか帰れるかもしれないし…
とりあえずレイチェルちゃんに会いに行こうとドアに近付くと、木製のドアがだんだん黒くなりあの手の影になった。
「あの手はお前のだったのかよ、ビビって損した」
「…まだ終わってない、何処にいくつもりだ?」
「は?終わってないってなにが…」
ゼロは俺の足をジッと見る。
俺は短パンに裸足だった…あれ?ブーツ履いてた筈なんだが…
寝ながら脱いだ?俺、そんなに寝相悪かったのか?
そういえばさっき舐められてる気がしたな、タロウはいなかったけど…
………そう、コイツしかいなかったんだ。
いや、まさか…と思いながら疑いの眼差しを向ける。
「まだ太ももを舐めてない、愛でさせろ」
「いやぁぁぁっっ!!!助けてぇ!!誰かぁっ!!」
身の危険を感じて必死にドアを叩きまくるが影がガードしていて全く外に響かない。
なんつー厄介なものを…とぐぎぎと歯を噛み締める。
早くしないと男としての大切なものを失う気がする。
短パンから肌を出す内股を撫でてフッと耳に息を吹きかけられた。
ぞわぞわと鳥肌が立った。
そして低音の無駄にいい声で囁いた。
「…つかまえた」
女子諸君に聞きたい、本当にこんな変態野郎でいいのか…もっと他の男がいいと強く勧めるぞ。
最初のゴーストからして異世界トリップして俺のステータスが受け継がれているような気がするからきっと今のゼロの好感度は99%だ。
確か何処かの店で好感度を下げる薬があった筈だ。
…………あぁぁぁ〜、レイチェルちゃんに使うわけないからって忘れていた自分が憎い!!
固まる俺の太ももをやわやわと揉む痴漢野郎。
はぁはぁ息遣いが聞こえる、マジでキモい。
ケツになんか硬いのが押し付けられてるような…考えないでおこう。
「さぁ、さっきの続きだ…ベッドに戻るぞ」
「嫌ですね」
「立ったままがいいのか、恋人の要望に答えよう」
じゃあ止めてくれお願いだから…
言ってもどうせ聞く耳がないんだろうけど…
立ったままってなんだと思ったが、世の中…これほど知らなくていい事があっただろうかと思うほど知らなくていいと思った。
それにこれははっきりさせようじゃないか、うん。
何故そうなっているのか俺には一ミリも理解できないが…
俺には心に決めたレイチェルちゃんという子がいるんだ!
「俺はお前の恋人になった覚えはない」
なんで好感度がバグったのか知らないが、冷たくそう言う。
ゼロは驚いた顔をしている。
…いやいやなんでそんな驚いてんだよ、焦げた炭あげた奴を恋人だと思う奴に一番びっくりだよ。
というかそもそも俺、告白イベントやってないんだけど…
なんでイベントすっ飛ばされてるわけ?
これは運営にもの申したい、異世界トリップに運営なんているのか分からないけど…
「何を言ってる?俺に手作りの料理を作って渡してくれたじゃないか、俺のために苦手な料理を作ったのだろう…少し焦げていたが愛だと思えば美味しく食べられるさ」
美味しく食べたの!?
…あぁ、そうか…ゼロを人間だと思っちゃいけないんだな…チートという名の化け物だし。
それに俺はレイチェルちゃんに手作り料理を作ったんだ…ちょっと失敗しちゃったけど…
まぁいい材料だったから苦味が多いだろうが、ちょっとは美味いかもな。
…全く食べたいとは思わないけど…
嫌がらせでゼロにあげただけだ、素直に言うと殺されそうだから言わないでおこう。
「いや、あれは…違う子に…」
「……違う子?」
「痛い痛い!」
太ももを撫でる手がギュッと強く揉むから怒るならまず揉むのを止めろ!と抗議する。
ゼロはよしよしと太ももを撫でる。
…いや、まず触るのを止めてくれ。
俺の太ももはゼロに翻弄されている。
いちいち手つきがやらしいから嫌なんだよと頬を引きつらせる。
しかしゼロの顔は助平どころか、鋭い眼光で睨んでいて嫌なギャップにチビりそうなほどビビった。
「浮気は許さない、相手は誰だ」
「…そんな事言われて言うわけなっ…」
くるっとひっくり返されて、ゼロと向かい合う格好になった。
逃げないように両手をつき閉じ込められる。
至近距離で黒い瞳に見られ、別の意味でドキドキしてきた。
浮気ってなんだよ、まだ恋人だと思ってんのか?
俺が女の子だったら楽しいイベントなのかもしれないが、俺は残念ながら男だ。
全く萌えないし、むしろほっといてほしいですね。
「…俺はお前の恋人だろ?」
「いえ違います」
ちゃんと違う事は違うと言わなきゃな。
俺はイエスマンにはならないぞ、絶対に!
ゼロはムッとした顔をしていた。
何故そんな顔をするんだ、事実だろうに…
…しばらく考えて、ハッと思いついた顔をする。
嫌な予感しかしない。
「まさか、記憶喪失か!?」
「なんでそうなるんだよ…」
呆れてため息が零れた。
はぁ…早く帰りたいと思いながら今現在、俺は椅子に座っている。
手に持つのはティーカップ。
…なんで俺、落ち着いてお茶とか楽しんでるわけ?
仕方ない、影がドアをがっちり固めているし…俺の猫耳フードはいつの間にか脱がされていた。
さっきまで気付かなかったなんて…よっぽどゼロが強烈だったんだな…うんうん。
ゼロはテーブルに乗った籠の中のクッキーを食べる俺をジッと眺めていた。
え、変なもの入れてないよね。
「…なにか?」
「いや、小さな口を一生懸命開けて俺のを咥えてるのを見ると…な」
「嫌な言い方しないで下さい」
俺のってなんだよ!俺のって!ちゃんと最後まで『俺の作ったクッキー』て言えよ!
…なんかそれもやだな、食べるのを止めた。
紅茶もどうせ俺の淹れた紅茶とか言わないで『俺のを飲んで』とかヤバイ発言しそうだからティーカップを置いた。
俺がもう飲まないのを確認して影が素早くティーカップを回収した。
…なんだあの瞬発力、ミュミュより早い…変態だしろくなのに使わないんじゃ…
まさかあのティーカップ、変な事に使わないよな…と顔を青くする。
「じゃあこれからどうしようか」
ティーカップを持っていった影を目で追いかけていたらゼロが話しかけてきた。
…これからどうする?帰るに決まってんだろ。
そんなキラキラ期待に満ちた顔されてもお前の要望は無理だからな!
これ以上ここにいたら危険だと俺の本能がそう言っている。
どうするか選択肢を与えてくれるなら帰らしてもらえないだろうか。
俺は呟くようにポロッと口にした。
「帰りたい」
「大丈夫、10分もあれば帰りたいなんて思わないから」
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