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第5話

おい、10分で何する気だ?怖いんだけど… ゼロが俺の腕を掴みぐいぐいとベッドの近くに引きづられそうになるから踏ん張る。 ベッドだけは行ってはならぬ!絶対にだ! くそっ、さすが最強の男…強い力だ。 しかし俺も己の身を守るために超必死だ。 しばらく攻防戦が繰り広げられて、ドアをノックする音と共に終了した。 「おーいゼロー、いるかぁ?」 ドアの向こうから声がする。 ゼロの舌打ちが聞こえいきなり力を緩めたからその場で転けた。 なにか大事な話なのか嫌々ドアに近付きドアをガードしていた影がゼロの影に戻っていく。 あれ?これ、逃げるチャンスじゃね? ガチャとドアを開けると金髪短髪の人懐っこい笑みを浮かべた男が立っていた。 えっと確かコイツ見た事あるな、あまり目立たないから名前は忘れたが結婚出来ない普通のNPCだったような… ゼロと同じ騎士なのか騎士の服に身を包みゼロと会話している。 今度何処かに行く打ち合わせみたいだ。 マジ?じゃあしばらく安全か!? その前に好感度下げる薬を見つければ、ふふふっと笑う。 人懐っこい男は部屋の床に座り怪しい笑みを浮かべた俺を見つけたみたいで首を傾げた。 「ねぇあれは?」 「俺の恋人、もうすぐ妻になる」 「へー」 いやならねぇよ!? 何言ってんだ、コイツはという顔をしながらゼロを見つめると手をヒラヒラと振り応えたからプイッと顔を逸らす。 人懐っこい男は俺に全く興味ないからかすぐに話題を変えた。 …あれ?そういえばドアばかり気にしていたが、この部屋…窓があるじゃないか。 しかも普通に開くではないか。 ゼロがこちらを見ていないかチラチラと確認しながら窓ににじり寄る。 「俺達騎士団に挑戦しようとしている冒険者達が待ってるからゼロも早く行こうぜ」 「行かない」 「えっ、何でだよ…城の中にいるのは退屈だっていつも言ってたじゃねーか」 「それはツカサに会う前だ、今のツカサは危険だ…変な奴にフラフラ付いて行こうとしているから俺が守らなくては」 「……ツカサってさっきのお前の恋人?」 「だったらなんだ」 「さっき窓から飛び降りたぞ」 「!?」 ゼロは振り返り、開いた窓と風に揺れるカーテンが見えた。 ゼロの部屋は三階で落ちたら無事じゃ済まされないだろう。 ゼロは急いで窓を覗き込むと、下には緑の庭と花壇だけでまっすぐ見ると遥か向こうに人影のようなのが浮いてるのが見えた。 はぁと短くため息を吐いた。 ゼロの足元の影はうようよと蠢いていた。 遅れてのんびりとやってきた人懐っこい男は外を眺めた。 「行っちゃったね」 「見てないとすぐに何処かに行ってしまう、俺の気持ち分かったか」 人懐っこい男は何も答えないが、やれやれといった顔をする。 長い付き合いだが、ゼロのこんな幸せそうな顔は初めて見たと思っていた。 忘れ物の猫耳フードとブーツを隠していた箱の中から取り出し鼻に押し付ける。 ほんのり甘いにおいがするのは何故だろうと微笑む。 このにおいを嗅ぐととても落ち着く。 …別の部分も元気になるから困り者だ。 「…絶対に逃がさないから」 こうなったゼロは誰にも止められない、大変な奴に一目惚れされたなぁーと他人事のように思っていた人懐っこい男だった。 ーーー 俺はSSRを諦めて帰ってきた。 二人が話している隙に窓を音を立てないように慎重に開けて外に一人分の魔法陣を出し、それに乗り脱出した。 ミュミュはいつの間にか俺の隣にいた。 今度から影には注意しとこうと思い呪いの森に帰った。 白いワイシャツに短パン姿でレイチェルちゃんに会えない!恥ずかしい!と泣きながら魔法陣から降りた。 そして降りた先には鬼…のような顔をしている師匠と後ろには死神の圧力。 だらだらと冷や汗が流れた。 「遊びに行ったとなると、クエストは全て終わらせたのじゃな」 「……え、いや…その〜…実は俺誘拐されて!」 「ほぅ?誘拐、とな」 あ、ヤバい…さらに怒りメーターに火がついている。 誘拐は本当なのに信じてくれない、ぐすっ… 師匠に首根っこ掴まれ、そのまま強制的に師匠の家に連行された。 皆ジロジロ見てヒソヒソ話すからとても恥ずかしかった。 師匠のログハウスに入り、師匠は椅子に座り俺とミュミュは床に座り正座していた。 足がすぐに痺れるから正座は苦手なんだよなぁ… 「そういえば馬鹿弟子、お前のローブはどうしたんじゃ?」 「…だから誘拐されたって言ってるじゃないですかぁー!!俺がどれだけ怖い思いをしたか!」 泣きながら訴えると師匠はうーんと考え出す。 …俺ってどんだけ信用ないんだよ、悲しい。 結構このゲームやってたのに、師匠には届いていなかったようだ。 まぁ、ほとんどレイチェルちゃんを追いかけ回していただけだけどさ。 ローブがSSRだから簡単に手放さない事、演技なんてすぐバレるからしない事を熱弁した。 師匠の半信半疑の顔が不安を煽る。 「ローブに関してはお前の貢ぎ癖からして信用出来んが、演技が下手なのは同意じゃな」 貢ぎ癖ってなんだよ、誰にでも貢いだりしねぇし…レイチェルちゃんだけだし! それにさすがに装備を貢いだら俺、弱体化するじゃん。 そんな弱い姿、レイチェルちゃんに見せられるかよ。 …まぁ演技でない事を分かってくれればいい。 そろそろ足が、ぐっ… 爪先がピリピリと痺れてもぞもぞと足を動かす。

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