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第6話

「…良かろう、今日は多めに見よう」 「くっ、んんっ…あっ、いたたた」 「だらしないのぅ」 そう思うなら痺れた足を杖で突くのやめてくれ…マジで… やっと正座から解放されたらこれかよ、足がジンジン痺れる。 立てるようになるまで痺れと戦っていたら師匠はやっと死神を引っ込ませてくれた。 師匠って意外とドSだよな、俺Mじゃないから全然嬉しくねぇ…爺さんだし… …まぁレイチェルちゃんならウェルカムだけど! 顔が良くてもゼロはノーサンキューです。 「それで、誰に誘拐されたんじゃ」 「…あ、えっと…影騎士のゼロだよ、なんで呪いの森に入って平気なのか謎だけど」 「ゼロ、だと?」 師匠の顔色が変わった。 なんだ?知り合い?ストーリークエストとか全然やってないから繋がりがよく分からない。 ちょっとくらいやっとけば良かったとプチ後悔した。 しかし今さらそう思っても仕方ないからすぐに開き直った。 師匠はゼロを知ってるのだろうか。 険しい顔を見るからに知り合い程度とは思えなかった。 「ゼロは剣士でありながら呪いの力でシャドウを操っているのは知っているか?」 「いやいや知らないよ、そんなゼロの事詳しくないし」 公式でもゼロはシャドウを操るしか書かれてなかったし、呪いだとは知らなかった。 だからミュミュがあんなに怖がっていたのか。 クエスト進めればいろいろと明かされるのか? …この世界で暮らすなら理解するために少しはストーリークエストを進めようかな。 そう考えていたら師匠が話を進めていく。 師匠がゼロに詳しいのは驚いた。 いつも森に引きこもっていて交流なさそうなのに… 「アイツは元は呪いの森の住人でな、森で捨てられていたところをワシが拾って育てた」 …そんなエピソードがあったのか、だからこの森に入れたのか。 ん?じゃあなんで剣士なんだ?グリモワール独特の根暗っぽさもないし… 職業の掛け持ちは出来ないからまさか、いやでも…うーん。 シャドウはゼロの使い魔か?それとも術? あんなチートの術があったら俺が使いたいよ、使いこなせるかは別だけど… いろいろ謎が深まり頭にハテナが浮かんで首を傾げた。 「影の力は生まれもってゼロが持っていた能力だ、ゼロは10歳までいたんだが…職業を変えて剣士になり旅立った」 は?え?ちょっと待て、確かにグリモワールから剣士に変える事は出来る。 でも確かジョブチェンジはグリモワールレベルを100にして全てマスターしないと無理な筈だし、剣士になったらまたレベルが初めからになるし初期で選べるジョブだから滅多にジョブチェンジするプレイヤーはいない。 シャドウナイトは特殊なジョブがないから変える必要がない。 NPCはどうだか分からない、元々決まっている職業が気に入らない場合もある…のか? それに10歳でマスターして、剣士のレベルも俺より明らかに上だろう…もしかしたらもう100かも… この世界の時間はよく分からないが、かなりやり込まないと無理だろう。 「ば、化け物だ…想像以上に」 「確かに力を持ちすぎたのかもしれん…しかし、何故ゼロが馬鹿弟子を誘拐するんじゃ?」 なんと言えばいいのか悩む。 明らかに好感度のせいだが、師匠に言っても分からないだろう。 俺は不自然にならない程度にすっとぼけた。 師匠の白い目から目を逸らした。 …そうだ、師匠ならなにか知ってるかもしれない。 アレさえあれば俺の生活は安泰だ! 「師匠!嫌われる薬売ってる場所知らない?」 「…なんじゃ、いきなり」 「いや…なんかストーカーに遭っててさ、困ってんだよ」 「馬鹿弟子がか?」 師匠は馬鹿にしたような顔をして見ている。 むっ…俺だって信じられねぇよ…なんであんなに焦げた炭で執着するのか。 実はチートにしか効かないチートアイテムなんじゃないかとまだ思っている。 あーあ、レイチェルちゃんが良かったよー… 頬を膨らませて拗ねると師匠はため息を吐いた。 そんなどうしようもない奴を見る目で見ないでよー…俺には師匠だけなんだから! 「…確か、旅商人の男がそんな怪しい薬を売ってるのを見た事あるのぅ」 「旅商人!何処にいるんだ!?」 「旅をしているから現在地まで分からない、いつかまたこの地にも商売をしに来るじゃろう」 いつか…その間に襲われたらどうすんだよ。 あの変態ゼロの事だ、身の危険をヒシヒシと感じるんだよ。 旅商人って確かイベントになるとイベント説明してたアイツか? なんか胡散臭い無精髭のオヤジだったよな…確か。 じゃあイベントになったら来るんじゃないのか!? 此処はゲームの世界そのままだし、イベントだってある筈だよな! 「師匠!イベントってなんかないの?」 「お前はコロコロと話題を変えるなぁ…イベントならもうすぐスノーホワイト祭が始まるのぅ」 スノーホワイト祭、どんな祭だ? シャドウナイトは大きく分けて二種類のイベントがある。 戦闘系のイベントか恋愛イベントを楽しむイベントか。 俺は恋愛イベントの方だけやっていたから戦闘系はさっぱり分からない。 恋愛イベントは仲を深めつつ、料理や釣りなんかで得点を競うものだ。 スノーホワイト祭は初めて聞いたから新しいイベントだろうな。 しかし、どっちかいまいち分からない。 「師匠、どんなイベント?」 「スノーホワイト祭は極寒の島でのサバイバルじゃよ、スノーホワイトという魔物を狩り得点を競うものじゃ」 戦闘系のイベントか…恋愛イベントならレイチェルちゃんの限定会話が聞けるからやったんだけどな…しかし親密な会話は好感度50%以上じゃなきゃ聞けず、レイチェルちゃんは毎回のイベントであれほしいこれほしいとしか言わない。 それに俺は喜んで応えていた。 …それでいいんだ、レイチェルちゃんの笑顔が見れるなら… 師匠からスノーホワイト祭のチラシをもらった。 内容はさっき師匠が言っていた内容と、一週間泊まり込みの命がけのサバイバルだと書いてある。 寒いの苦手なんだよなぁ…とチラッと景品を見た。 ガチャ券とURの武器と…こ、これは… 俺は目を輝かせていた。 URのあったか毛布のプレゼント…!! 二人用にちょっと大きめサイズ。 あったかマフラーのリベンジだ! それにスノーホワイトという魔物は見た目雪だるまで落とすスノー結晶はひんやり料理によく使われる。 公式発表でレイチェルちゃんは冷たい食べ物が好物だと聞いていたが材料に欠かせないスノー結晶はSR食材でなかなか手に入らない。 俺はやらない理由が思いつかなかった。 旅商人はいろいろイベントが終わってからでいいよな、イベント期間中はいるだろうし。 「師匠!俺、参加する!」 「そうか、面倒な運動はやらないと思っていたが…なら頑張ってきなさい」 俺は力強く頷いた。 寒そうだからいろいろ装備を強化してと考えていたら師匠に肩を叩かれた。 なんだろうと師匠を見ると師匠はニコニコと笑う。 俺も笑う、あ…嫌な予感。 「早速、やりかけのクエストを終わらせなさい」 「あれ?今日はもう休んでいいんじゃないの?」 「そんなわけあるかっ!」 「ひぃ〜!!」 師匠はそんな甘くはなかった。 急いで残りのクエストをやりに師匠の家を出た。 いろいろあったな、と…ベッドに寝転がり白い天井を眺める。 帰ってきたら俺の猫耳フードが畳まれて部屋にある。 ゼロが来たのか?とガクガクと周りを見渡すとそれらしい人物はいない。 なんか黒い影がサッと逃げていくのが見えて、影にお使いさせたのかと呆れた。 猫耳フードは暖かいからちょうど良かったと着る。 クエストをやっていてすっかり遅くなってしまい、眠くなる。 瞳を閉じて明日こそレイチェルちゃんに会うぞ!と決意して眠る。 影が頭を撫でていた気がするが、気のせいか? ーーー 師匠に捕まる前に起きて、家を出る。 魔法陣に乗り王都までひとっ走りする。 昨日クエストのついでにレイチェルちゃんへのお土産を作ったから準備は完璧だ! 「待っててね!レイチェルちゃん!」 ずっと怪しい影が付いて来るんだが… 俺の影に引っ付いてるからまく事も出来ない。 レイチェルちゃんをゼロに知られるのでないかとヒヤヒヤする。 もしレイチェルちゃんになにかあったら、俺は…俺はぁっ!! 「俺はただ酒場で酒飲むだけだからな!変な誤解するなよ!」 未成年だからお茶を飲むが、一応ゼロ?に釘をさす。 影の手は分かってるのかピースしている。 はぁ…レイチェルちゃんに会うのがこんなに大変なんて、ゲームだと楽だったのに… 酒場だが王都グレンの酒場は年中無休で開いている。 夜は男達の溜まり場だが、昼間は客が少なくて口説くのに便利だった。 王都に到着して魔法陣から降りて酒場に向かう。 酒場は夜の雰囲気を潜めて、落ち着いた雰囲気だった。 カウンターの向こうに目当ての子がいた。

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