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第4話 はじまりの始まり
「……なあ、ホントにやめる気ねーの?」
「しつこい。ないよ」
「………」
「なんでとか言わないでよ?うっとーしーから」
「そうじゃなくて……」
「なに?」
「俺ばっかだから……何か……」
慣れとは恐ろしいものだ。
三度目の密会は、修作も今までより慌てたり驚いたりする時間が少なかった。
今日もまた口を使って修作をイかせたあと、前述の会話がなされる。
修作の言葉を聞いて、七海は珍しく驚いた顔をしたあとすぐに立ち上がり、修作にずいっと顔を寄せ聞いた。
「俺のもしてくれるの?」
「えっ。いやでもあの…く、口では無理……」
顔を隠す様に手で覆って、しどろもどろに修作が言う。
「最初からそんなハードルあげないよ。先輩ドーテーだし」
「……」
笑いながらあっさりそう言う七海に、修作は反論できず黙ってしまった。
くるりと体勢を入れ替え自分が机に座った七海は、修作の手を自身の下半身へ押し当てた。
「……手でして」
「………っ、くそっ!」
相変わらずエロい顔で笑いやがって。
こんな勝手な後輩は放っておけばいい。
わざわざ自分から提案して触ってやることだってないのに。
でも、やられっぱなしでは心苦しい。
修作はそんな自分の性格を呪い、意を決して七海のベルトに手をかけた。
自分でする時いつもどうやっていただろうか。他人のものとなると勝手が違い、修作はぎこちなく七海のモノを包み刺激した。
「……ねえ、それ本気?」
「は?!」
「カマトトぶんないでよ後輩にフェラまでさせてるくせにさぁ。さすがにオナニーくらい人並みにやってんでしょ?」
「カっ……!それはお前が勝手にやったんだろうが!」
そんな反論を遮って、七海は修作の肩をぐっと抱き寄せ耳元でつぶやいた。
「もっと強くして」
少し高めの声と、同時に吐き出された艶っぽい息が修作の耳に触れ、背中に電流が走った。
「あ、いー感じ……」
「黙れよ……」
「え〜?興奮してるくせに」
「………」
古くなったパソコンが整列された棚を意味なく見つめながら、修作はせめて七海が早く達するよう必死で手を動かした。自分がされて良いように、親指で先端を刺激しながら、包み込んだ手の平を竿に擦りつける。
「ん……ッ、」
微かに声が聞こえたかと思うと、七海は修作の手を上から握りしめ、そのままドクドクと射精した。
「……はぁ。先輩、やればできるじゃん」
「ちょ…っと、これ……」
「舐めてくれないの?」
「なっ……!絶対無理!!」
「情けないな〜」
ため息混じりにそう言うと、七海は下着とズボンをさっさと整え、鞄からスポーツタオルを取り出し修作に放り投げた。
(先輩に物を投げるか、普通……)
バスケ部でそれなりに体育会系の秩序を学んだ修作にとって、七海の行動はいちいち馬鹿にされているように感じてしまう。
「なぁ一ノ瀬お前……」
「タオル」
「あ、ごめん」
「んじゃまたね〜」
終わったらさっさと帰ってしまうのは相変わらずだった。
修作は毎回この瞬間に実感する。
何のフォローもない、無駄話もほぼない二人の密会には、以前七海が言った“ヒマつぶし”という言葉がとてもしっくり来る。
それでも修作が七海を突き放せないのは、七海から滲む違和感を無意識に感じ取っていたからか、ただ単なるお節介でお人好しな性格だからか。
そのどちらかなのか、もしくはどちらでもないのか、修作本人にも分からなかった。
◇
それからも、委員会がある度にこの密会は続けられた。
3Eの教室から密会場所である空き教室まで移動するわずかな時間に修作が日常会話を投げかけても、七海がそれに答えることは稀だった。
だから二人は、何度も会っているわりにほとんどお互いのことを知らないままだ。
「ちょっと待って」
「え?何?」
いつものように欲を満たしたあと修作を放って帰ろうとした七海だったが、修作が腕を掴んで引き止めた。
「…えーっと、お前さ」
「?」
「何か…、悩んでんの?」
「……はあ?」
思わぬ質問を投げかけられて、七海はぽかんと口を開けた。そしてすぐにけらけらと乾いた笑い声を上げた。
「あははっ!何ソレ、なんで?悩んでるふうに見えた?」
「うん」
迷いなく頷く修作に、七海は少し面食らう。
いつものような見下した態度を取れば、すぐに撤回すると思っていたから。
「どのへんが?」
「ん〜…なんとなく、だけど……」
「何それ。俺のことからかってんの?」
「違うって。俺、後輩の相談とかけっこう聞いてきたから…。何ていうか、そういう奴と同じような顔してるっていうか」
修作の言葉をそこまで聞くと、七海は無言で修作に背を向け教室の戸を引いた。
「一ノ瀬?」
「もし悩みがあっても、先輩には言いません」
「……い、」
「じゃ、またね」
イラつきをわざと強調するように、七海は大きな音を立て引き戸を閉め、出て行った。またねと言ったときの爽やかな笑顔は、修作が初めて触れた七海のニセモノの表情だった。
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