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第11話 気付いたってしかたなかった(修作一人称)

「修作~お前今日予備校?」 「え?ううん木曜は休み」 「じゃあラーメン食いに行かね?新しいとこ見つけたんだ!」 「え!マジで!行きたい…けど……」 「予定あった?」 「あー…うん、ごめん」 「そっかー残念。じゃまた今度な!」 ラーメンなら絶対醤油!という好みが合う友達と、よく部活帰りにラーメン屋に寄り道していた。ここ最近はお互い予備校やら進路指導やらで忙しくて、その寄り道もずいぶんご無沙汰だ。今日は木曜だから予備校は休みなんだけど、どうしてもこの曜日は、あいつのことを思い出してしまう。 そして放課後、気付いたらあの空き教室の前まで来ていた。 誘いのメールはもちろん来ていない。一週間前のあの日から一度も。 「捨てられたんだろ」と言ってしまったことを、あれからずっと後悔している。今までなら、そんな核心をつくような言葉ちゃんと飲み込めて来たのに。傷つけると分かっていたのに、ついカッとなって言ってしまった。“ついカッとなる”ことが初めてで、対処の仕方が分からなかったんだ。 それでも、自分から「ごめん」の言葉を送ることはしなかった。 これで嫌われておかしな関係が終わるなら、その方がいいと思ったから。 なのになんで、俺はここに来ているんだろう……。 空き教室の戸を静かに開ける。 カラカラカラ…と乾いた音が響いた先に、震える背中を見つけた。 「………一ノ瀬?」 声を掛けても返事はない。 窓の方を向いて机に腰掛けている一ノ瀬の耳のあたりに白いコードが見えて、イヤホンをしているのだと分かった。 「なあ…、」 一瞬ためらったが、その背に近付いて肩を叩いた。 驚いたように勢いよくこちらを振り返った一ノ瀬は、なぜかまた泣いていた。 驚いたように見開かれた綺麗な青い目…が、今日も真っ赤に染まっている。 「なに一人で泣いてんだよ……」 「…別に、先輩には関係ないでしょ。てかなんでいるの」 肩をぐるんと回して手を払いのけられる。それがなぜか、とてつもなく悲しかった。 「関係ないって何だよ…俺がどんだけお前に…」 「…オレになに?振り回されたって言いたいの?よく言うよ先輩だって好きで来てたくせに。イヤなら来なければいいのに。今日だって別に誘ってないじゃん」 「………っ!」 その通りすぎて反論のしようもない。目先の快感に溺れていったのは事実だ。それでも絶対に言い切れるのは、それだけが理由じゃないということ。 「ふざけんなよ…」 「………え、」 「ふざけんなっつったんだよ!」 「そうじゃなくて…。何で先輩が…な、泣いてんの…?」 目の前が水の中にいるみたいに歪んで行く。 一ノ瀬の顔がぼやけて、頬に冷たい感触が通った。 「俺はその教師にはなれないし…っ、なりたくもないけど!お前がいつまでもそんな顔してるのはイヤなんだよ!ヤるだけヤってお前のこと見捨てるような……っ、そんなクズみてーな奴さっさと忘れろよ!忘れてちゃんと俺のこと見ろよ!!」 ……怒鳴りながらようやく気がついた。 そうか、本当はずっと嫉妬してたんだ。“先生”の正体を知る前からずっと、自分を透かしたその先にいる“誰か”に。 もうずいぶん前から、一ノ瀬にとっての誰かの代わりでいることが、いやだったんだ。 「…………」 一ノ瀬はぽかんとした顔を浮かべていた。当然だ。いきなり何を言い出すんだこいつはって、思ってるだろうな。 気持ちに気付いた途端失恋なんて、まさしく自分らしくて余計涙が出る。 「……悪い、変なこと言った。“先生”とうまく行くといいな。じゃあ」 一ノ瀬の顔も見れず、踵を返して教室を出た。背中で俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたけど、気のせいだと決め付けて振り返りはしなかった。 そして帰りの電車で、一ノ瀬からの着信をすべて拒否する設定をした。 メールも電話も、アプリのメッセージも。 どうすればいいか分からなさ過ぎて、そんな幼稚な手段しか思いつかなかったのだ。 ……気付かなければよかった。 こんなに虚しくなるのなら、好きだなんて気付かなければよかった。

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