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第13話 悪循環

「修作何かやつれた?大丈夫?」 7限目の進路指導という名の自習の時間、頬杖をついてぼうっとしていた視線の先で大きな手がふわふわと揺れる。 「えっ。あ、え?なに?」 「やつれたんじゃねって言ったの」 「そう?動いてないから筋肉落ちたんじゃん?」 「にしても何かさァ……」 クラスメイトが、心配そうに修作の顔をのぞき込む。 わざわざ心配してくれる友人に対して、修作は「ほんと平気だって」と笑いかけるしかなかった。 「譜久田~次~」 「はーい」 「いってら」 出席番号でひとつ前の生徒が修作を呼ぶ。 友人はひらひらと手を振って修作を見送った。 階段を下りて職員室へ向かうその足取りはとても重い。 直近に行われた模試の結果を見ながらの進路相談。 毎日机に向かっているのがまるで無意味に思えるほど、修作はその模試の手応えがなかった。 「……焦っても結果は出ないって、スポーツやってたお前なら分かるだろ」 担任は結果が書かれた紙を見ながら溜め息をついた。 溜め息をつきたいのはこっちの方だと、そんな小さなことにイラついてしまうくらい気が立っているのを自覚する。 「まだこの時期からの挽回なんていくらでも出来るから。あんま追い込み過ぎずにな」 「…はい」 「顔白いぞ大丈夫か」 「それは元々です」 「そうだっけ、体調管理ちゃんとしろよ。じゃあえーっと、次堀田呼んできて」 「はい…」 帰りのホームルームが終わっても、修作は家に帰る気になれずふらふらと足の赴くままに歩いた。 たどり着いた先は、あの空き教室の前。 用済みの備品が置かれた埃っぽい部屋の中に、もちろん人影はない。 窓際に置かれたガタつく椅子に腰かけて、窓の外を眺めた。 太陽はもうとっくに傾いていて、カーディガンを着ているとはいえかすかに肌寒いくらいだ。季節はもう、ずいぶん通り過ぎていた。 どうしてあの日、ここへ来てしまったのか。 修作は七海と最後にここで会った日のことを思い返していた。それがなければ、この気持ちに気付くことだってなかったかもしれないのに。 あれからずっと、朝登校するたび、渡り廊下を歩くたび、そして帰りの昇降口で、七海の姿や声を探している。無意識にさまよう自分の目線に気付いて、その度に嫌気が差す。 七海にとってみたら、ヒマつぶしに使っていただけの先輩に変に気を持たれてさぞ迷惑なことだろう。 着信拒否もメッセージのブロックもむしろ好都合だと思われているかもしれないし、そもそもそんなこと気がついてすらいないかもしれない。 修作はひとり勝手にそう思い込み、そしてその思い込みを反芻するたびに溜め息が漏れた。 他のことを考えたくて模試の結果の紙を取り出してみても、同じように息を吐くだけ。 浪人するほどの気力もないのに、もし受験に失敗したらどうしよう。 ボーダーフリーの大学に行くくらいなら、専門学校の方がいいかもしれない。そもそも専門学校って美容系以外に何があるんだろう…。そんなふうに進路を決めていいのだろうか…。 つらつらとそんなことを考えているうちに、視界がぼんやりと白くなっていく。 吐きそうなそうでないような中途半端な不快感が胃から喉に駆け上がるように襲ってきて、すうっと指先が冷えるのが分かった。 椅子に座っているのも苦しくなって、床に座ろうと腰を浮かせたところでそのまま意識が遠のいた。

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