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第14話 泣き声独白
「……・・!修作先輩!」
「………」
やけに真っすぐな声が聞こえて、ゆっくりと目を開ける。
「よかった生きてた~もぉ~……」
声の主は七海だった。
力なく叩かれているのを腕に感じて、徐々に意識がはっきりしていく。
ふと声のする方に目を向けると、綺麗な青い目がキラキラしていて、きれいだなぁと呑気に思った。
「……寝てた」
「は?!寝てたんじゃないでしょ倒れてたんだよ…って何その顔色!青いってか何かもうみどりいんだけど!!」
「うるさい…」
「わっ、ごめん…」
久しぶりに聴く声と久しぶりに見る顔に、浮かれている場合ではない。
早く離れなければ。修作はそう思って、体を起こした。
「先輩……」
「帰る」
リュックを取ってまた一瞬目の前がふわっとした。
窓のサッシを支えにして、倒れ込むのを何とか阻止する。
「ふらふらじゃん!ちょっと休んでった方がいいって」
「………」
その提案に抵抗する力もなく、黙ってまた床にへたりと座る。怖くて七海の顔は見れず、修作はずっとうつむいたままだった。
「先輩、勉強大変なの?どっか調子悪い……?」
背中をぎこちなくさする手のあたたかさに、ひどく安心した。
張り詰めていたものがふわりと緩む感覚は、どうやら涙腺と繋がっているらしい。
「………っ」
「先輩?」
「お前のせいだよ……」
「え……」
「お前のせいで…。お前のせいで全然寝らんないだよ…。どうしても…“先生”ってやつのこと想像して、夢まで見て…。頭ん中じゃなんにも出来なくて…。一ノ瀬のこと振り向かせたいって思ったって!ヒマつぶしの俺にはどうにも出来ねえし!」
「…せ、」
「お前知らないだろうけどさ、俺お前のケータイ全部着拒したんだよ。連絡なんて来るわけないのにさ。ホントもう……っ、バカらしすぎるだろ?考えたくなくて勉強ばっかしてんのに全然成績上がんねーしもう……っ。もう疲れた……」
言い終わって、全部吐き出して、頭の中はどこか霧が晴れたようにすっきりしていた。冷静な自分が、「あーあ、やっちゃった」と呆れているのも分かった。だけどもう、取り繕う気もなかった。
嗚咽を止めたくて必死に深呼吸する間も、背中をさする手は相変わらずあたたかい。
「知ってるよ…着拒もブロックも…。知ってるに決まってんじゃん……」
「………」
「先輩ごめんね、俺のせいで…」
修作はその“ごめん”が何をあらわしているのか分からなかった。
あの痛いほど鮮やかなオレンジに染まった日からずっと“ごめん”ということだろうか。そう思うと、何も聞けなかった。
「ねえ、俺の話はあとでいいからさ。先輩体調悪いんでしょ?電車で帰れる?誰か先生に送ってもらう?」
「…大丈夫。ただの貧血だし」
「貧血にただもクソもないでしょ!ご飯は?ちゃんと食べてるの?」
強がりを言う元気もなく、涙を手のひらで乱暴に拭いながら素直に首を振った。
「……あっ、ねえねえ!俺先輩んちのご飯また食べたいな!ね、今日行ってもいい?」
「は?でも……」
「うち今日親いなくて、コンビニで弁当買って帰るつもりだったんだ。ダメ?おばあちゃんにも会いたいし!」
「………」
七海が来たら、きっと祖母や母は喜ぶだろうな。
そう思ったら強く断ることもできず、返事に困っていると七海は勝手に「ね?決まり!帰ろー!」と決定づけ、修作のリュックを代わりに背負った。
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