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第3話 元は清かった、野獣の心

***  敬は笑いが止まらなかった。 ベッドに寝ている久志は麦茶に仕込んだ睡眠薬で当分起きそうも無くて、腕は敬の手により頭上にまとめて縛り上げられている。 「計画は順調だな……」  わざとらしく大きく開かせた足を優しく撫で、野獣先輩が姿を現わすのを待つ。現在時刻は夜の0時。野獣先輩が現れるのは真夜中の2時らしい。  敬は今か、今かとその時間が訪れるのを待っていた。スマホにダウンロードしたゲイビデオを復習して熱を高めていく。 七夕のように1年に1度しか会えない。織姫と彦星のようだな、と敬はこの状況を楽しんでいた。  もちろん興奮で寝れるはずもなく、待望の夜中2時が訪れる。 「ファッ?!」  頭上から男性にしては甲高い声が聞こえた。敬は目を大きく開かせて目の前にいる黒い物体を見る。  そこには、黒い短髪の髪から覗く羊のような白くて丸い角、黒く日焼けした肌……野獣なのに悪魔の姿をした野獣先輩がいた。 「ものほんだ……」  そして目の前で現れた野獣先輩は海パンを穿いていなかった。それは例のお着替えタイムがあることを意味していて、敬は胸を躍らせる。 「あの汚いパンツを拝める日が来るとは……」 敬は勢いよくガッツポーズをした。  ゲイビデオの中で彼が演じた先輩役と後輩のお着替えシーンがあるのだが、そのシーンの中で元々は白いパンツだったであろう伸びきった茶色いパンツが映し出されるシーンがある。  そのシーンを敬は頭の中で再生している時、野獣先輩は敬という第3者の人物に怯えていた。どうやら、複数人になるのが嫌なようだ。 「暴れ馬よ……」  不意に野獣先輩が持っていた大きな枕を大きく振りかぶり、敬に襲いかかった。行動から見るに『暴れるなよ』と言いたかったらしい。  もちろんその言葉、敬には翻訳を通さなくても伝わっていた。そのセリフは幾度となく聞いてきたし、野獣先輩の滑舌が絶望的なことも知っている。 「ま、待ってくれ。俺は野獣先輩の邪魔をする気はない。ずっと、ずっと野獣先輩に会いたかったんだ」 野獣先輩は大きな枕で殴る事をやめて、敬を見る。その目はまだ疑っていた。 「見たけりゃ、見せてやるよ」(震え声)  またネット民にとって有名なセリフが出た。敬は興奮で鼻息が荒くなると同時に、目に見えない字幕が目の前に現れ同時翻訳をしてくれる不思議な現象に感動している。

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