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その言葉にほっとしたのも束の間、 慎司はあろうことかアクセルを目一杯踏み込んだ。 車はタイヤを空回りさせた後、急発進する。 「ひぃぃいっ!!」 千暁の体がシートにめり込み、 あまりの恐怖に情けない声が出る。 「大丈夫、安全運転で行くからさ」 二カッと人好きのする笑顔で慎司は言った。 一般道を時速75キロで駆け抜ける。 右折左折、車線変更で右へ左へ。 急発進急加速は当たり前。 黄色の信号をギリギリで突破する。 周りからクラクションが鳴り響く。 「うわぁ怖い怖い怖い怖いっ! とめて!とめてっ! ひぃぃ………おえっ………うっぷ……」 「あはははは、ゴミ袋、いる?」 叫び、泣き、仕舞いには嘔吐きだした。 目を瞑ってガクガクと震える千暁を見て、慎司は楽しそうに笑っている。 しばらくするとクラクションが鳴り止み、激しく揺れていた車体が静かになっていることに気付いた。 「外を見てごらん?」 慎司が優しく声を掛ける。 千暁は減速したのかと思い恐る恐る目を開けると、車は首都高を走っていてぎょっとする。 速度は時速100キロを軽く越えている。 「ほら……なかなか良い景色だろう?」 促されて景色を見ると、そこにはレインボーブリッジが輝き、そのまま進んだ橋の上からは高層ビルの煌めきが見えた。 道路照明灯が流れ星のように過ぎていく。 キラキラとした光の粒が千暁の瞳に明かりを灯した。 「……」 「…………まだ怖いか?」 「…………あれ?………怖くない、です……」 「そう、よかったね」 そう言って慎司は前を向いたまま、片手で千暁の頭をわしわしと撫でた。 もう居ない父親の温もりを感じたような気がした。

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