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「あの日は本当に酷い目にあった!」 恵比寿にある料亭で贅沢な夕食をいただきながら、 千暁は先日のドライブを思い出して憤慨した。 「悪かったよ。でもお陰で車に乗れるようになったじゃないか」 慎司はくつくつと笑って悪びれる様子も無い。 「あんな無茶な運転して、命がいくつあっても足りませんよ」 「え?一緒に死にたかった?千暁くん、情熱的だなぁ」 「頭沸いてるんですか?むしろ死んでください」 「千暁くんが殺してくれるなら死んでもいいんだけど」 「勝手に一人で逝ってくださいよ」 「ははっ、言葉に棘があるねぇ」 「……慎司さん、変な人ってよく言われるでしょ」 「んー、“働き者の真面目な社長”って言われるよ」 先日、慎司が運転する暴走車から降ろされた後、千暁はすぐに嘔吐した。 おえおえと側溝にひとしきり吐いたら、トラウマも一緒に吐き出してしまったかのように車に乗れるようになった。 いや、今まで以上のトラウマを植え付けられて麻痺しているだけかもしれない。 慎司の運転は、正直あまり上手ではない。 危なっかしくてまるで死に急いでいるかのようだ。 「車に乗れるようになったなら、おじさんとデートしよう」 もう何度目になるか分からないデートの誘い。 あまりのしつこさに折れた千暁は、慎司と頻繁に出かけるようになった。 料亭で食事を終えた帰り道、車内で慎司が提案する。 「せっかくトラウマを克服したんだから、今度は少し遠出しないか?」 どこに行きたい?と問われ思案した後 「…………水族館、かな」 と呟いた。 「水族館?俺と?」 「はい、慎司さんと、行きたいです」 「可愛い事言うじゃない。彼女とデートで行くような所に、こんなおじさんでいいのか?」 「傍から見たら親子みたいですよね」 「言うねぇ。まあ、楽しみにしているよ」 「ふふ、こちらこそ」

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