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千暁は自社の社長のことをよく知らない。
ホームページにも顔写真は無く、
面接は人事部に全て任されている。
入社式で挨拶があったようだが、千暁は親戚の弔事で出席できなかった。
そして社長は忙しい人で本社にほとんど顔を出さない。
千暁は自身の雇用主が“萩原社長”と呼ばれている事しか知らないのだ。
下の名前は思い出せなかった。
水族館に向かう車中で、千暁は溜息を吐く。
「……僕の採用理由、酷いでしょう?」
「ははは。その会社、嫌なの?」
「いえ、結構気に入ってます」
「じゃあいいじゃないか」
「うーん」
「ま、千暁くんくらい可愛い子なら、俺はそばに置いておきたいけどね」
「そんな物好きは慎司さんくらいですよ」
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