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千暁の過去を、慎司は静かに聞いていた。
「……車が怖かったのは、そのせい?」
「……はい」
「千暁くんは、“独り"を自覚すると“死にたくなる"んだね……そんな時、どうするの?」
「走るんです。何も考えられないくらいに、ただ走る。それで死にたい衝動をごまかしてきました。ずっと」
「だから毎晩走っていたのか」
「………………はい」
「……俺は独りが寂しいとき、君の姿を見に行っていたなぁ」
「慎司さんに独りが寂しいとか、あるんですね」
慎司の薬指で光る指輪に一瞥をくれた。
それに気づかないふりをして、慎司は言葉を続ける。
「君に会えないときは、仕事に没頭するか、誰かを抱く………とかね」
しばらくの沈黙の後、千暁は口を開いた。
「……慎司さん、僕、寂しいです……」
「……どういう意味か分かって言ってる?」
「アンタが思うほど子供じゃありません」
「ハッ、そんな誘い方するヤツは子供だよ」
信号で車が停車した隙に、唇を奪われる。
手馴れた慎司のキスは煙草の味がした。
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