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第8話 文:あおい 千隼
海乃の手筈は万全だった。むしろ完璧すぎて怖くなるほどに。
俺と伊吹を引き連れ彼女がエスコートするのは、最近できたばかりのファッションホテル。いわゆるラブホテルだが、外装や内装にもこだわり抜いた造りで、まるで王宮のような趣きと贅の凝らしかたが人気を博す。
「……ここに入るの」
思わずそうこぼしてしまう。
「そうよ。リザーブ代は高いけど、下手なホテルよりビジュアル面がいいもの。ほんとうは私の部屋で──と言いたいところだけど、ママが一階にいるから無理だしね。ふたりも私と同じ実家暮らしなんだから、ホテルを利用するのは当然の流れでしょう」
俺のつぶやきに逸早く返すのは海乃で、「安心して。ホテル代も私が持つわよ」とズレたセリフをつけ加える。
確かに俺たちは実家暮らしで、当然ながら両親が不在でもなければ部屋で睦事は楽しめない。
けれども女ひとりに男がふたりで利用するなど、俺の倫理を大いに刺激する。どうしたものかと二の足を踏んでいれば、背後に立つ伊吹が力の抜けるような言の葉をぶちかましてきた。
「楽しみだね碧都。一度このホテルに来てみたかったんだ。できれば碧都と来たいなと思っていたら、さっそく願いが叶っちゃったよ」
「たっぷり気持ちいいことシようね♪」と、主人に懐き甘える大型犬のように伊吹は俺の腰を引きよせ、俺の髪をくんくんと匂い頬ずりをする。
やれやれ後には引けなくなった。はあとため息をつくと、決意を固めエントランスに足を踏み入れた───
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