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「――えっと。好きだから、付き合ってほしいんだけど」
「はあ?君、アタマ大丈夫?」
教壇に腰をかけて僕を見下ろす彼はそう言いつつ、しかし顔は笑っていた。
昨日、同じ時間の同じ教室。
『僕』の真面目な愛の告白に対して、『彼』はそう言い放った。
きっかけはつい先月のこと。他のクラスと合同で行う選択科目の体育で僕は彼を知った。
彼の名は、川崎 くんという。
初めて見たときから川崎くんは目立っていたというか、とにかく目を引いた。
すらりと背が高くて小顔で、脚も指も長くて身体のパーツが隅々まで整っている。
赤みの強い茶髪は染めてるんだろうけど、そこらへんのチャラついてる奴らのそれとはまるで違ってつやつやさらさら。彼の首へ滑るように流れる髪は女子より断然綺麗だ。
切れ長の奥二重は目力が強くて、けれどどこか物憂げ。
パッと見クールそうなキャラなんだけど案外よく笑う。
普段は薄い笑みを称えていて、優しそうな表情と取っ付きやすい雰囲気をしている。
そんなイケメンに僕は文字通り一目で惹かれた。
授業でやったバスケはばっちり上手いし。
……僕の頭の中はすぐに川崎くんでいっぱいになった。
次の授業も目で追い続け、ほどなく彼のクラスの近くを通れば無意識に姿を探すようになった。
川崎くんという存在を知ってしまって追ってしまったら、もう戻れなかった。
本当にあっさり恋に落ちて。面倒事とか、考えなきゃいけないこととか全部どっかいっちゃって。
その上、なんとなくおかずにしてみたらばっちり抜けてしまったのだ。男ってわかりやすくていい。
恋というものは突然で、衝動的で盲目的だった。
「君……。綾瀬 ……だっけ?君も俺も男だけど?」
「知ってるよ」
「……。……ああ、そっか。……そーゆーこと。うん、じゃあ明日チェックしてあげる」
「チェック?」
「君が俺のこと……ちゃんと飼えるかどうか。また明日同じ時間に。じゃあね綾瀬」
川崎くんは一方的に喋ったのち、ひらりと教壇から降りる。
その軽やかな仕草はまるで俳優みたいにかっこいい。
……川崎くんが僕の名前を呼んでくれた。しかも明日も会える。そんな些細な点で僕は舞い上がっていた。
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