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「ざけんな!来んな!」 「だって川崎くんがしろって」 「じゃあ俺が死ねっていたら死ぬのかよ!?」 「ええそれは嫌かも」 「あ゙ー!も~……っ!」 建物を出たところで、川崎くんを捕まえた。 彼がこれまた見たことない感じに怒鳴るものだから、僕は彼の腕を引いてビルの陰の細い通路に引き込んだ。 川崎くんは、がつっと壁を蹴った。 そして長い溜息を吐きながら顔を深く項垂れる。 がしがし頭をかき回すものだから、せっかくの綺麗な髪はぐちゃぐちゃになってしまった。 「楽しいかよ綾瀬。俺のことおちょくって……。そーやって、本気で好きみたいに、扱って」 「おちょくってなんかないよ。それに僕は本気で」 「……やめて、マジそういうの。……セフレのが楽じゃん。なんでわかんねえの……」 川崎くんは随分と鼻声で、腕を顔に押し付けている。 彼がこんなに恋愛を怖がる意味は……。 ……なんとなく予想はついているんだけど。 「気軽にさ、遊べるときにふらっと遊ぶくらいが、楽じゃん。男とかまじ、ガチで付き合うとか重すぎっつかありえねえから……」 「そんなこと思ってないでしょ」 「……!」 川崎くんは背中を壁に付けたまま、ずるずるとその場に座り込んだ。 僕は、静かに小さな嗚咽を漏らす彼の背中を撫でた。 川崎くんのことを知って、“噂”は早いうちに僕の耳にも入った。 正直ホモっていうのはありがたかった。だから僕も心置きなく告白に踏み切れたのだから。 でも問題はその後。 男は誰でもオッケーでとっかえひっかえで援助交際やってるとかなんとか。カルい。ちゃらい。ヤリチンなどなど。 ……しかし昨日告白してわかったことだけどその問題部分すべてが“仮面”だとわかった。 だってそういうのを本当に楽しんでて遊びの関係を望んでるタイプなら、真っ先に僕みたいな本気系は突っぱねられるはずだ。もしくはすぐに襲われるか。 でも川崎くんはそのどちらでもなかった。 試すような真似をしたのは、……期待したからに決まってる。 本当にセフレはいるんだろうし、そういう目的で彼に声をかける奴もいるだろう。 でも川崎くんはそういうのを無理矢理肯定して、身体だけの関係で充分だなんてポーズを作って、そして当然心が満たされないまま苦しんでいる。 必死で自分で自分を誤魔化そうとしている川崎くん。 僕の気持ちがわかっていて、信じきれない川崎くん。 最高にかっこよくて、悲しいほど愛おしい。 「川崎くん。僕本気なんだよ。僕は川崎くんと仲良くなりたいから、川崎くんの好きなことをして楽しんでもらおうと思ったんだ。それに川崎くんがしてっていうならなんでもする。さすがに死ぬのは勘弁だけどそれ以外ならするよ。だって、川崎くんが好きだから」 過程も理由も曖昧でも僕は川崎くんが好きだから。 「それ……」 川崎くんがゆっくり顔をあげる。 涙と鼻水でめちゃくちゃなのかと思ったらそんなことはない。 イケメンは泣き顔も綺麗だなんてずるい。 「……本気にしてもいい?」 「えー。僕は最初から本気なんだけど」 「……ん、そーだったな。……ごめん」 川崎くんは、泣きながら笑った。

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