6 / 80

第6話

「……」 でも……あの時の言葉に、そんな意味が込められているなんて思いもしなかった。 ハイジが怒るのも、無理はない。 「……ごめん」 「もういいって」 興ざめだとばかりに吐き捨てると、ハイジがベッドから降りる。 背の低い僕と、そう変わらない身長。 細身ながら、しなやかに引き締まった筋肉。肩まである、サラサラとした白金色の髪。切れ長でくっきりとした二重の眼。 幼さの残るその顔立ちは、よく見れば綺麗に整っていて。どうして僕なんかを……と、思わずにはいられなかった。 「それより。親に殺されかけたって何だよ。大事に育てられた『お姫様』みてェな面してんのによ」 背中にドクロと十字架がプリントされた、フード付きの白いトレーナー。立ったまま片手で拾い上げると、先に腕を通してから頭に被る。 脱色しすぎたんだろうか。左耳の上辺りの髪先が溶けかけ、そこだけが縮れてごわごわと広がっている。それを隠すように、ハイジがフードを被せる。 「……やっぱり、そう見える……?」 「ああ。見えンな」 「……」 そっか。 そう、だよね…… ハッキリと言い切られ、心臓が抉られるように痛い。 だけど、別に解って貰おうなんて思ってない。どうせ、僕の気持ちなんて誰にも解らないんだから。 ハイジから視線を外し、天井に浮かぶ偽物の星空をぼんやりと眺める。 「少なくとも、親元で暮らせるのは贅沢だぜ」 「──!」 贅沢? なにそれ。本気で言ってんの? 「殺されかけたのに?」 皮肉を込めて、そう言ってやる。 何にも知らない癖に。 知らない癖に──! 「僕が生まれたせいで、父が死んで。母に恨まれ続けているのが贅沢? 出来の良い兄が溺愛されて、僕は虐げられてばかりで…… 挙げ句、兄の友達に強姦されたとしても? それでも、贅沢?」 「……」 蟠っていた感情を、一気に吐き出す。 少し口にしただけなのに。あの忌まわしい感情までもが蘇ってしまう。 勝手に溢れる涙。 そのせいで。天井に浮かぶ満天の星々が一層煌めき、皮肉にも綺麗に映る。 「……悪ぃかった。人を見掛けで判断してよ」 それまで押し黙っていたハイジの、弱々しい声。 「……!」 思いも寄らない台詞に驚き、瞬きをして涙を切り落とせば……憂いを帯びた瞳を揺らすハイジが、くっきりとした視界に映る。

ともだちにシェアしよう!