17 / 80
第17話 学校
×××
久しぶりの学校は、相変わらずで。僕なんかが居なくても、何の蟠りもなく回っていた。
そこに安堵も憂いもない。……できる事なら、このまま消え去ってしまいたかったから。
アゲハのお下がりである学生服を身に纏い、学校指定のショルダーバッグを斜め掛けにして教室に入る。
「──あっ! 工藤くん、おはよー!」
「風邪、大丈夫だった?」
「酷かったって聞いてたから……」
「私たち、心配してたんだよぉ!」
僕の姿を見るなり、駆け寄ってくるクラスの女子達。その奥で、冷ややかに敵視を向ける男達。
「……」
心配?
そんなもの、した事ない癖に。
人垣を掻き分け自席に付くと、それには動じない女子達がついてくる。……まるで、金魚の糞。
「ところで、王子──アゲハさんの事なんだけど」
「……」
工藤アゲハ──
眉目秀麗。才色兼備。温厚篤実。
この世にある賛美の言葉の数々は、アゲハの為にあるようなものだ。
キラキラと煌めくような笑顔。纏うオーラ。勉強も運動もでき、周囲を気遣う優しさも持ち合わせている。
正に、絵に描いたような王子様。
そのアゲハに少しでも近付こうと、弟の僕を踏み台にしてくる女共。それは何も生徒だけではなくて。アゲハの魅力に取り憑かれた女教師までもが、笑顔の仮面を貼り付け僕に近付いてくる。
時々見え隠れする不浄心に……反吐が出そうだ。
「家を出て、独り暮らししてるって本当なの?」
「……ぇ……」
鞄を机の脇に掛け、椅子を引く手が止まる。
……アゲハが、家を?
俄に信じられない情報に動揺する脳内。その脳裏を過ったのは……折れ曲がった教科書と、切り刻まれた私服。
……ああ、だからか。
僕の私物が酷い目に遭ったのは、アゲハが僕と一緒に家を出たと勘違いしたからなんだろう。
「まさか……同棲?」
「付き合ってる彼女 とか、いないよね?」
「何か、聞いてない?」
少しでも反応を見せてしまったせいか。堰を切ったように、女子達からの質問攻めに遭う。
それを鬱陶しいと感じながらも、思い出さずにはいられなかった。
「……」
山本竜一──僕を強姦した男が、再び訪問してきたあの日の事を。
ともだちにシェアしよう!