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第18話

『抵抗、しないんだな』 『……』 柔らかな吐息が、僕の項に掛かる。 次いで押し当てられる、熱くて柔い唇。 ぴくん、と肩が、小さく跳ね上がってしまう。首を竦めながらも、波紋のように広がる甘い快感に酔いしれ、次に訪れる温もりを密かに待ちわびる。 僕の肩を掴む大きな手が離れ、背後から包み込まれる、竜一の温もり。 『……!』 この瞬間──愛おしい気持ちが内側から溢れ、僕を支配する。 この温もりは、誰のものでもない。……僕だけのもの。 トクン、トクン、トクン…… 少しだけ速い心音。力強く高鳴るその鼓動が、僕の背中を響かせる。その皮膚や血肉を透過し、到達したのは……僕の心臓。 共鳴し、重なる心音。 触れる肌の温もりさえ、愛おしい程心地良くて。微睡みの波にのまれ、身も心も蕩けていく…… 一体、どんな気持ちなんだろう。 愛しい人の弟を身代わりに抱いて、本当に満たされるんだろうか。 そんな野暮な事を、ぼんやりと考える。 もし僕がアゲハに告げたら、竜一はどうするつもりなんだろう── 「───!!」 突然迎える終幕。 天国から地獄へと一気に突き堕とされ──容赦なく壊される、僕だけの居場所。 それまでの、温かくて優しい手とは違う。冷たくて残忍な手が、僕の身体をベッドに捩じ伏せ、上から乱暴に押さえ付ける。 これは、報いだ。 ほんの一瞬でも、竜一の温もりが欲しかった、僕への…… パンツと一緒にズボンを下ろされる。 後頭部を押さえ付けられたまま、軽々と腰を持ち上げられ、尻を突き出すような格好をさせられる。 人間らしい扱いなんて、ない。 使い捨ての、只の物と同じ── 不様に晒された窄まりに、硬くなった男の先端が押し当てられる。 恐怖で震える身体。引いていく血の気。浅くなる呼吸を止め、シーツをギュッと掴む。 「──……ッッ!!」 最奥まで打ち込まれた瞬間──痛みが脳天を突き抜けていく。 治りかけていた(ひだ)がメリメリと裂け、切れたような痛みが襲う。 声にならない声で叫びながら、ただ只管に痛みに耐え──強くシーツを掴む。 飛びそうになる意識。シーツに顔を埋めながらアゲハの匂いを吸い込み──この地獄が終わるのを只願うしかなかった。 『何で、言わなかったんだ。アゲハに……』 テーブルに携帯灰皿をセットした竜一が、煙草に火を付ける。 まるでアゲハに言って欲しかった口振りに、ちょっとした反発心が芽生える。 『……僕にだって、守りたいものがあるから』 『何だそりゃ……』 竜一が少しだけ笑う。 上に伸びていた細い紫煙が、僅かに揺れた。

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