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第28話
「……にしても、マジで酷ぇな……」
僕の上から退き、仰向けになったハイジが天井をじっと見つめる。その眼は怒りに満ち、ナイフのように鋭く尖っていて……
「……」
「じゃあよ。この入れ墨消して、桜吹雪にでもするか……」
僕の不安を余所に、冗談とも本気ともとれる台詞を吐く。
「……っ、何それ」
「お、やっと笑ったな」
ふと、緩んでしまった口元。
横向きになり、肘枕をしたハイジが僕の顔を覗き込むと、僕の片頬を軽く抓んで引っ張る。
「……だって。そんな事したら、遠山の金さんみたいになっちゃうじゃん」
「はは、だよな。……でも」
その指が、僕の横髪を絡めながらそっと梳く。
「オレは、本気だかんな」
瞬きをして微笑むハイジの瞳が、痛い程に優しくて。真っ直ぐに合わせた視線から、力強い意志のようなものが伝わってきて……苦しい。
「……いいよ、そんな事。
きっとハイジも、アゲハを見たら心変わりするかもしれないから」
「しねぇよッ!」
弱々しく吐いた僕の言葉尻を遮るように、ハイジがぴしゃりと言い放つ。
「じゃなきゃ、……こんなンなるかよ」
そう言ってハイジが僕の手首を掴むと、自身の下肢の中心に押し当てる。
硬くて、熱くて……
「……ハイジの、えっち」
「あー、エッチだよ。オレは」
勢い良く上体を起こし、僕の腰の上に跨いで見下ろすハイジの眼に、それまで消えていた劣情が灯る。
「……シても、いいか?」
くちゅ、ぢゅぷ、
広げた下肢から聞こえる、厭らしい水音。
ハイジの指が、ローションに塗れた襞をゆっくりと押し広げていく。
「……っ、」
「痛く、ねぇか……?」
劣情を含んだ吐息が、囁かれる声と共に耳元を擽る。
「……、ん」
引き結んだ唇にハイジの唇が重なり、こじ開け侵入した舌から熱い唾液が流れ込む。
溢れたそれが口端から溢れ、耳下を通って項へと伝っていく。
ナカで蠢く指。
本来とは違う器官にされたそこが、異物が侵入したと僕に警鐘を鳴らす。
気持ちいいのかどうかも、解らない。ただ、高揚するハイジが嬉しいのなら……
「……もう、挿れていいか?」
間近に迫る、切羽詰まった眼。熱い息遣い。
多分……こんなに僕を好きになってくれる人なんて、他にはいない。
『愛されるより愛したい』──アゲハを崇拝する女達が、そんな事を口々に言っていたけど。多分、僕にはできない。
どう愛したらいいか、解らない。
「うん……」
だから、ハイジが欲しいなら捧げたい。
こんな僕の身体でいいなら、……ハイジの好きにして。
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