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第44話

校門から出てくる生徒の数が、次第に減っていく。 視線の先に見える上空が、次第に明るさを失っていく。少しだけ強い風が吹き、剥き出しの肌から容赦なく体温を奪う。 「……」 駅の方、行ってみようかな…… 待ち合わせの場所を、勘違いしたのかもしれない。足下に置かれたショルダーバッグを拾い、僅かな希望を抱え、その場を離れた。 いま、何時だろう。 辺りが仄暗さに包まれ、中央線のない細い公道の端を歩く。時折通り過ぎる車のライトが、いつの間にか眩しく感じる。 駅まで、あと少し。なのに、闇を切り取ってその足下だけを照らす外灯の灯火が、道の両端に点々と続いているだけで、何とも心許ない。 パッパ──ッ! その時、背後から現れた車が僕を眩い光に包む。驚いて振り向けば、それは僕の直ぐ脇で急停止した。 運転席側のパワーウインドウが開き、男の顔が現れる。 「……よぉ」 黒い短髪。鼻筋の通った、大人っぽい顔立ち。 切れ長の二重で、ガラス玉のような無機質な眼。 ───ドク、ンッ、! その瞬間、心臓を強く打ち抜かれる。 その風穴に、何とも名前の付け難い様々な感情が渦巻き、僕を支配していく── 「久し振りだな」 リュウ…… どうして、リュウがここに…… 「ハイジの女……確か名前は、さくらと言ったな」 「……」 「こんな所で、何してる」 その眼が、じっと僕を捕らえて離さない。 「………まさか、迷子じゃねぇだろうな」 少しだけ持ち上がる、口の片端。 シニカルに微笑む眼。 それは──妙な所で気遣いをする、あの時の眼に似ていて…… アゲハの部屋で受けた痛みと恐怖、そして、一番欲しいと願っていた、あの心地良い温もりをも引き連れて、僕に襲い掛かる。 「乗れ」 真顔に戻ったリュウが、顎で助手席を指す。 鋭く突き刺すような、冷たい眼。 「……でも……ハイジと、これから会う約束をしていて……」 「いいから、乗れ」 有無を言わさず、冷たく言い放たれる命令口調。 「……」 乗っちゃいけないって、解ってる。 だけど……僕の行動ひとつで、ハイジの立場が悪くなってしまったら…… 長年植え付けられてしまった従順体質のせいで、上手く拒否できない。 その言い訳をするように、心の中で呟きながら助手席のドアを開けた。

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