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第43話 守りたいもの
×××
授業を受けながら、ふと窓の外を眺める。
小さな薄雲がひとつしか無い、清々しい程透き通った青空。
こんな日に限って綺麗な秋晴れなんて、何とも恨めしい。まるで、ハイジとの別れを祝福しているようで。
早朝、アパートにある荷物──とはいっても、殆ど私物は持ってない其れ等を纏めて、駅のコインロッカーに預けた。
現実感のない現実。悪い夢なら覚めて欲しいと願うけど……
「さくら」
既に腹を括ったらしいハイジが、気の重い僕にやんちゃな笑顔を見せる。
「実はこの後、いつもの仕事があンだけどさ。リュウさんに頼んで、……金、前借りしようと思ってんだ」
「……え」
「って事で。夕方、校門まで迎えに行くから。……デート、しようぜ」
「………うん」
僕に、気を遣ってくれたんだろう。
ハイジだって、大変な筈なのに。
……でも。もう少し一緒にいられる時間があるのは、やっぱり嬉しい。
*
斜陽の柔らかな光が廊下側にある机の足下まで射し、帰りのHRを終えた教室内をオレンジ色に染める。
首筋にあるハイジの刻印のせいか。近頃は、僕を踏み台にする女達が一人も近付かなくなった。
加えて、疎ましい男子からの敵視も。
クラスメイトとの間に、見えない膜のようなものが張られているように感じるけど……全然平気。
寧ろ、平和でいい。
帰り支度を済ませ、廊下に出る。
いつもと同じ日常が、特別なものに感じる。
ハイジに会えるのを、こんなに待ち遠しいと思った事なんて、今までなかったかもしれない。
でも、その数時間後には……
「……」
勝手に家を出た僕を、また以前のように住まわせてくれる気がしない。
アゲハが間に立てば、母も渋々承知するだろうけど。……そこまでして、あの家に戻りたくはない。
玄関で靴に履き替え、校門へと向かう。
あの向こうに、ハイジがいる。
……早く、会いたい。
少しだけ緊張しながらも、逸る気持ちを抑えなから校門をくぐる。
「……」
……え……
そこにいる筈のハイジが──いない。
まだ、仕事が終わってないんだろうか。それとも、コインロッカー前で言われた台詞は、幻……?
不安な気持ちを抱えたまま校門近くの塀に寄り掛かり、帰り道の方向を見つめる。そこからハイジの気配を捜すけど、バイクの音すら聞こえない。
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