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第42話

「……酷ぇよな。 あんな家に帰れって……オレだって、ンな事言いたかねェよ」 肩を掴むハイジの手が緩み、二の腕、肘、手首へと、その輪郭を確かめるようにゆっくりと柔肌を滑り下りる。 「……でも、そうも言ってられねぇ状況だってのは、解るだろ?」 「……」 「悔しいけど。今のオレじゃ、お前を守ってやる事も出来ねぇ……」 その手のひらが、僕の手の甲を包み込む。 そっと握られ絡まる指。背中から感じる温もり。トクトクと少し速い心音が、苦しそうに吐かれる声が……切なく響いてきて、辛い。 「オレ、今度……ヤベぇ仕事すンだよ」 「……」 「暫く、あの溜まり場には戻れそうにねェんだ」 「……」 ……もしかして。 帰れって言ったのは、そのせいだったの? ハイジの留守中、僕に何かあったら困るから…… ハイジなりに、僕の事を色々考えてくれたんだろうけど。 僕にとっては、どっちも同じ。 だって。今はハイジが……僕の居場所なんだから── 「………ゃだ、」 思うより先に、言葉が突いて出る。 「ハイジと、離れたくない」 ……やっと、言えた。 僕の口からちゃんと。ずっと抱え込んでいた本音を。 例え叶わないと、解ってても。 触れるだけで壊れてしまいそうな程、柔くて脆い、剥き出しの心。込み上げてくる感情のせいで、涙腺が緩み、目尻から大粒の涙が一筋零れ落ちる。 「オレだって、……離れたくねぇよッ!」 項に顔を埋め、ハイジが力強く抱き締める。 「──クソ、離れたくねぇ」 「……」 「終わったら、……速攻で迎えに行く」 切なく震える指先。 ハイジの想いを感じて、キュッと胸が締め付けられる。 「………うん、」 待ってる。 ハイジが迎えに来るの、待ってる。 だから、お願い。 早く迎えに来て───

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