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第41話
×××
「……なぁ」
パソコンに足先を向け、背中を丸めて横になる僕にハイジが声を掛ける。
「まだ、怒ってんのか?」
「……」
パソコンを弄りながら、背中を向ける僕にハイジが声を掛ける。
駅前通りにある、新設されたばかりのインターネットカフェ。
フリードリンク、シャワー完備は勿論の事、完全個室に防音まで謳っているものの、薄い壁の向こうに他の利用者がいるかと思うと、中々落ち着かない。
何より、ハイジに淡々と告げられた別れ話が、ずっと心に引っ掛かっていて……
「別に、……怒ってない」
「……」
「じゃあ、何でソッチ向いてンだよ」
何で、って……
そんなの、解ってる癖に。
「……なぁ、さくら」
布ずれの音がしたかと思うと、添うようにして横になったハイジが、僕を背中から包み込む。
「ゃだ……、」
肩を丸めて、ハイジを拒否する。
なのに。その肩をしっかりと掴んで、離さない。
「捨てる気なら……優しくしないで」
つい、口を突いて出てしまった本音。
その瞬間、ピンと張る空気。
「……」
アゲハとは違う。
ハイジは、安全地帯にいたまま僕に手を差し伸べた訳じゃない。
寧ろ、その逆。どんなに深い闇の中だろうと、迷わず飛び込んで僕を助けてくれた。
なのに……
今ハイジを苦しめて、困らせてるのは、僕だ。
ハイジが傷害事件を起こしたのも、そのせいでチームの空気が悪くなったのも、僕のせいなんだから。
離れなくちゃ。……ハイジがそう、望んでいるのなら。
「───捨てねぇよ!!」
強い意思を持った声。その吐息が、僕の項に掛かる。
「誰が、さくらを手放すかよ」
「……!」
──キュッ
ハイジの手に力が篭もる。
背後から感じる温もり。感じる心音。
「……だったら、どうして」
ドクン、ドクン、ドクン……
声が、震える。
たった……たった一言で、こんなにも心が軽くなってしまうなんて……
「言ったろ。オレらのいる世界 は、さくらが思ってる以上に危ね ぇんだって」
「……」
「悪ぃ。こうなっちまったのは……オレのせいだ」
「……」
「オレがあン時、カッとなってヘマなんかしなけりゃ……」
悔しそうに吐き出される声。震えるハイジの指先。
「……」
……違うよ。
僕が、声なんか掛けられなければ良かったんだ。
ハイジの真意が解って、少しだけ呼吸がしやすくなったものの……
胸の真ん中が、ギュッと握り潰されるように……苦しい。
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