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第45話
×××
ネオン街の一角にある、オフィスビル。
その上層階にある事務所。
「……」
一体、何の会社なんだろう。
土足のまま通された応接間の中央には、黒革のソファ3点と硝子テーブル。窓際には観葉植物。
「座れ」
黒スーツに身を包んだリュウに見下げられ、怖ず怖ずとソファに向かう。ショルダーバッグを足下に置いて腰を下ろせば、リュウの小さな溜め息が聞こえた。
「そんなに警戒するな」
「……」
「何か、飲むか?」
淡々とした口調。
窓際に移動したリュウが、ブラインドカーテンのスラットの角度を変える。と、煌びやかな夜の景色が消え、視覚的にも外との繋がりを遮断されてしまう。
「……」
「珈琲でいいか?」
何も答えないでいれば、それを肯定と捉えたのだろうか。返事も聞かず、リュウが足早にドアの外へと出て行く。
──パタン。
ドアが閉まると同時に、一気に全身から力が抜ける。
車の助手席に乗ってからここに辿り着くまでずっと、緊迫したムードで。車内は始終、静かだったから。
遮断された窓の方へ、チラリと視線を向ける。
……ハイジ、今頃どうしてるだろう。もしかして、ずっと探し回ってるのかな……
想像しただけで、胸が苦しくなる。
この世界 から、僕を遠ざけようとしてくれていたのに。その肝心の僕が、リュウの命令に従って、こんな所に来てしまうなんて。
あの時、もっと強く拒否すれば良かった。……今更後悔しても、遅いけど。
──ガチャ。
ドアが開き、ビクンと肩が跳ねる。
「……そんなに警戒すんじゃねぇ」
コーヒーカップをふたつ──白と黒を手にしたリュウが、僕を見下げながら溜め息混じりに言い放つ。
……コト、
その内のひとつ、黒い方のカップを僕の前に置く。
そこに描かれていたのは──煌びやかな蒼色の羽を大きく広げ、何とも優雅に夜空を舞い飛ぶ蝶。
「──!」
アゲハ──
瞬間、息が止まる。
血液という血液が凍り付き、全ての感覚を失う。
だけど……鋭利なもので抉られたように、心臓が痛い。
これは、……アゲハが家で使っていたものだ。
間違いない。コーヒー渋 の形も、付いてる位置も……全く同じ。
どうして、こんなものがここに……
……まさか……
アゲハが、この事務所に何度も来ている……?
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