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第46話

視線だけを持ち上げ、リュウを盗み見る。 「……」 やっぱり──竜一だ。 アゲハの部屋で僕を襲ったのは、僕の予想していた通り、アゲハの気を引こうとしただけ…… あの時与えてくれた温もりは、僕のものじゃない。 ──最初から、アゲハのものだったんだ…… 膝の上に置いた手をギュッと握り、奥歯を噛み締める。 竜一が僕を忘れるのも無理はない。たった数回会っただけの、只の踏み台に過ぎないんだから。 「そう、睨むな。……取って喰いやしねぇから」 「……」 相向かいに腰を掛けた竜一が、胸ポケットから煙草を取り出して一本口に咥える。ジッポで火を付け、ふぅーと吐き出す。 「……ごほっ、」 「煙ぃか」 付けたばかりの煙草をもうひと飲みしてから、テーブルの端にあった灰皿に揉み消す。 それは──事を終えた竜一が、ベッドの外で煙草を吸っていた時と同じ光景で。妙な所で気遣う素振りに、ふと背中から優しく包み込む、あの穏やかな温もりが蘇る。 「……っ、」 どんなに振り払おうとしても。 一度植え付けられてしまったその優しい温もりは、簡単には消えてくれない。 結局この人も、他の女達と同類だった癖に。 何故か解らない。胸の奥が灼けるように痛くて、苦しくて…… 拒絶できない悔しさから、目を伏せ下唇を強く噛んだ。 近くで稼働する空気清浄機。そのお陰で煙草臭さが消える。 しかし再び訪れた静寂には、耐えられそうにない。 そもそも何で、僕はここに連れて来られたんだろう。素朴な疑問が、今更になって過る。 コーヒーには一切手を付けず、再び遮断されたブラインドカーテンへと視線を移す。 「……」 約束の場所に現れなかったハイジ。 駅へ向かう僕を、有無を言わさず車に乗せようとしたリュウ。 その点と点を結んだ先を想像すると、……嫌な予感しかしない。 『オレ、今度……ヤベぇ仕事すンだよ』──ハイジは一体、どんな仕事をしているんだろう。 もしかして、ハイジの身に何かあった……? 「……そんなに、ハイジが気になるか?」 「え……」 言い当てられて、ビクンと身体が震える。 竜一へと視線を戻せば、その口元が少しだけ緩んでいた。 「心配なら、今ここで電話してやろうか?」 「はい」 「……はい、か」 少し呆れたように吐き捨てながら、竜一の口元に笑みが浮かぶ。でもそれは、決して馬鹿にしたものではなく。何処か寂しそうにも見えて。 その複雑な表情に……竜一の心情が、良く解らない。

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