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第47話
内ポケットから取り出した黒い携帯電話をタップし、耳に当てる。
「……ああ、ハイジか? ちょっと待ってろ」
そう言うと、身を乗り出した竜一が僕に携帯を寄越す。
「………、ハイジ?」
『えッ、は? さくら?! 何でお前が……つーか、今、どこにいンだよ!』
驚愕し、慌てふためく声が耳に響く。
「リュウさんの、……会社?」
『──ハァ?! 何やってんだよバカッ!……ちょっと、リュウさんに代われ!』
謝る余地も与えず、ハイジが電話口で吠える。
携帯を返そうと手を伸ばせば、ソファから腰を上げた竜一が、それを受け取りながら僕の傍らに立つ。
「そう嫉妬するな。……ああ。事務所に戻る途中、ガラの悪い男に絡まれていた所に出会 して、見逃せなかっただけだ」
「……」
──嘘だ。
車に乗るよう、僕に命令した癖に。
竜一を見上げ視線で訴えるものの、何の効力もないらしい。電話を切ると、携帯を仕舞いながら僕をじっと見下ろす。
そのガラス玉の様な眼に、……何故だろう。
優しい感情の色が含んでいて──
「……、っ!」
気付いた時には、……遅かった。
屈んだ竜一の唇が舞い降り、見上げていた僕の唇に落ちる。
それは、ただ触れるだけのキス。
だけど……
触れた瞬間、ビリッと電流が走り……ショートしたように脳内が真っ白になって……何も考えられない……
「……」
離れていく唇。
余韻の残る、感触。
そこだけがやけに熱くて。
心臓が、勝手に暴れ回って。
こんなの、絶対おかしいと、……もう一人の僕が、僕に警鐘を鳴らす。
「抵抗、しねぇんだな」
竜一の指が、僕の顎先に掛かる。
瞬きを忘れ、真っ直ぐ竜一を見つめていれば、僅かに瞼を閉じた顔がスッと近付く。
……なん、で……
真っ白になったまま、なかなか稼働しない脳内。
重ねられて直ぐ、ハッと我に返り、竜一の肩を強く押し返す。
……なんで、こんな……事……
『品定め』──瞬間、真っ白だった脳内に、その単語が幾つも浮かび上がる。
「………なに、するんですか」
「何って……決まってんじゃねぇか」
「……!」
間近で鋭い眼光を向ける竜一に、一瞬怯む。
……やっぱり……
ここに連れてきた目的は……僕自身、だったんだ……
この状況で、どうやって逃げれば良いか、解らない。
それでも……真っ直ぐ竜一を見据え、抵抗の意思を見せる。
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