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第58話

どうして…… 「……」 ……どうして、父の死に目に会えなかったというだけで、此処までされなければならないんだろう…… 親にとって、我が子は絶対的で……無条件に受け入れられる存在(もの)じゃないの……? あの時首を絞める位なら、僕なんか、産まなければよかったのに──! 身勝手なのは、母の方だっ!! 「……」 はぁ、はぁ、はぁ…… 声にならない声が、腹の奥底から沸き上がる怒りが……僕の片腕を伸ばして母の二の腕を掴む。 「……ひっ、」 怯えた顔を一瞬見せ、母が小さな悲鳴を上げる。 きっと……僕が反抗するなんて、思ってもいなかったんだろう。 「な、……なにするのよ!」 小さく身体を震わせ、僕の手を振り払って後退りし、身を縮めて憐れに脅える母。端から見れば、子供に暴力を振るわれた……可哀相な被害者。 今まで、こんな人に脅えて暮らしていたなんて──! 「……出てってやるよ、こんな家っ……!」 荒くなってしまう呼吸をそのままに、喉奥から声を絞り出してそう言い切ると、地面を蹴って母の横を通り過ぎ、一度も振り返らずに走り去った。 * 元々、僕には居場所なんて無かったんだ…… 冷静になってくると、それまで見えなかった周りの視野が少しずつ広がり、現実が襲ってくる。 「……」 実家に戻るって、ハイジと約束したのに。 ……これから、どうしよう。 ぼんやりとアゲハの顔を思い浮かべるものの、先程の母の形相がチラついて容易にそれを隠す。 啖呵切って出てきた手前、簡単に戻れないのは解ってる。でも、かといって、このままという訳にもいかない。 「……」 ぐるぐると同じ考えばかりが巡るだけで、解決の糸口が何も見つからない。 行く宛もなく、ただ足の赴くままに彷徨うしかなくて…… 「……!」 レンタルショップの前を通ろうとして、よく見知った顔の人物が店から出てきた。 「……あれ、」 一見、好青年で人当たりが良さそうに見えるその人──僕を、ゲイパーティに誘ったレンタルショップ店員が、僕に気付いて声を掛ける。 「久し振りだね」 「……」 「元気にしてた?」 「……」 真っ直ぐ向けられる視線。勘違いさせたとはいえ、僕に襲い掛かろうとした事なんて忘れてしまったんだろう。 「この間の彼とは──」 「……あの、」 いきなりは、迷惑かな…… そうは思ったけど。他に頼る所なんて、ない。 「一晩、泊めて貰えませんか?」

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