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第61話
「……っていうか、ダレ?」
部屋に上がった小柄な男が、不適な笑みを浮かべながら僕を見下ろす。
「……」
棘のある言い方に加え、眉尻を高く吊り上げて見下げるその目は、何となく僕を睨んでいる様に見えた。
「今日から暫く、一緒に住むことになった子だよ」
「───はぁ?!」
その鋭い視線が、キッチンに立つハルオの背中に向けられる。
「何だよソレ! ふざけんなバカ!」
「……別に、ふざけてるつもりはないよ」
「ハァ? 充分ふざけてるよ、バカ!!」
小柄な男が凄い剣幕で詰め寄り、何度もハルオを叩く。
「……」
僕のせいで。
僕がここにいるせいで……二人の仲が険悪なものになってしまってる。
……でも、そうだよね。
訪ねた恋人の家に知らない人がいて、いきなりそんな事言われたら……
「………あの、」
思い切って、揉める二人に声を掛ける。
「やっぱり僕、出ていきます。
ご迷惑をお掛けして、すみませんでした」
振り返った二人に、怖ず怖ずと頭を下げる。
立ち上がり、部屋の隅にある荷物を拾おうとすると、キッチンから足早にハルオが近付き──
「ちょっと、待てっ」
「……!」
二の腕を強く掴まれ、ぐいと引っ張られる。反動で、ハルオの方へと向けられる身体。逃れようと後退るもののそれを許さず、余裕を失った表情のハルオが僕の顔を覗き込む。
「アイツの事なら、気にしなくていい。只のゲイ友で、恋人でも何でもないから」
「……」
「それに。今から出ていって、他に頼る宛はあるの?」
「……」
……それは、確かに無いけど。
でも……
ハルオを見上げたまま言葉を詰まらせていれば、直ぐ傍まで人影が差す。
「……ていうかさ、マジで何? アンタさ、ハルオの何な訳?」
仁王立ちで腕組みをした小柄な男が、僕とハルオを交互に睨み付ける。
「僕は一応、半年前からハルオの恋人やってんだけど」
「……っ、お前……」
「ずっと健気に通い妻やってる僕を差し置いて、……何でお持ち帰りされただけのアンタが、ハルオと一緒に暮らすんだよっ」
「───止めろッ!!」
僕の二の腕を強く掴んだまま、ハルオが吠える。
その瞬間、しんと静まり返る室内。
張り詰めた空気が重々しく、息ができない程苦しい。
「………酷いよ」
怒鳴り声に驚いたんだろう。目を見開いたまま、小柄な男がぽつりと呟く。
「酷いよ、ハルオ。……こんなの、裏切りだよ……」
その瞳の縁は赤く、涙で潤む。
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