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第60話
──確かに。
ハイジには、猟奇的な側面はあるけど。そんな自分に脅える程傷付きやすくて、胸が苦しくなる程……優しい。
「家出してからずっと、一緒に住んでたんですが。事情があって、三カ月程……離れる事になってしまって……」
「……」
「それで、家に帰ったら……」
「追い出された、って所かな?」
ショップ店員が、僕に微笑みながらそう畳み掛ける。
「……はい……」
「それじゃあ、一晩って訳にはいかないね」
「……」
……それは、確かにそうだけど。
でも今は、今日をどうやり過ごすかで精一杯で。その後の事まで考えられなくて。
先の事を考えようとすると、漠然とした不安が襲ってきて……頭の中に靄 が掛かったようになってしまう。
「……また、パーティーに……参加できますか?」
意を決し、俯き加減で男に告げる。
そんな事をしたら、ハイジを裏切る事になってしまう。
解ってる。でも、そうしないと……約束の日まで、僕は生きていけそうにないから。
「それは、新しい彼氏が欲しいから? それとも、泊まらせてくれる誰かを探す為?」
「……ぇ」
核心を突かれ、無意識に顔を上げる。
「彼氏が欲しいなら、話は別だけどさ。もしそうじゃないんだったら、好きなだけここに居なよ」
「……」
……え……
驚きを隠せないまま真っ直ぐ視線を向けていれば、男の涼しげな目が柔く細められる。
「君さえ良ければ、だけど」
──ピンポーン!
その時、突然チャイムが鳴った。
「ちょっと、ごめんね」
心当たりが無さそうな顔をした男が、そう言って立ち上がる。玄関の叩きに下りてドアをを開けると、その向こうにいたのは……
「ばんちゃ~、ハルオぉ!」
肩に付きそうな程伸びた、柔らかそうな髪。目鼻立ちがハッキリとした童顔。身体の線が細く、小柄で可愛いながら意志の強そうな表情をした男が、ショップ店員に向かって片手を上げる。
「……」
……この人、ハルオっていうんだ。
勤め先は知ってるけど、名前や素性なんて全く知らない。
そんな人に泊めて欲しいとか、何やってんだろう……
今更になって、危機感のようなものが募る。
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