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第12話

玄関ドアを開けると、ひんやりとした新鮮な空気が、肌を纏いながら部屋の奥へと流れ込んでいく。 久し振りの外は、思いの外眩しくて。思わず目を瞑ってしまった。 ドォルルルンッ…… ハイジの単車にエンジンが掛かる。 アパート脇の駐車スペースに行くと、既にバイクに跨がったハイジが僕にヘルメットを投げて寄越す。 「乗れよ」 黒いドクロにショッキングピンクのハートが描かれたそれを、不器用ながら被って装着する。 バイクの後ろに跨がって乗ると、両腕をハイジの胴体に巻き付けしっかりと抱き付く。 「しっかり捕まってろよ」 「……うん」 ヴォォオンッ!! エンジンを吹かし、勢いよくバイクが走り出す。 住宅街を抜け、活気溢れる昼の繁華街へと繰り出す。 一般の車と混じって走行するバイクは、やっぱり凄くて。周りの音を掻き消す程のエンジン音が身体中に響き、僕の頬やメットからはみ出た横髪を、容赦なく風が(なじ)る。 だけど、気持ちいい。 ハイジに巻き付けた腕に力を籠めれば、ヴォンッ、ヴォン──、と意地悪げにハイジがエンジンを鳴らした。 「……疲れてねぇ?」 暫く走った後、広い駐車場のあるコンビニに立ち寄る。 「ううん」 「何か飲むか?」 僕のメットを外しながら、ハイジが優しい笑顔を僕に向ける。 「……」 こんな風に、何の見返りもなく僕に優しくしてくれる人なんて、今までいなかった。 だから……困る。こういう時、どうしていいか解んなくて。 「何がいい?」 「……ハイジが選んだものなら、何でもいいよ」 「何だよそれ。そういうのが一番困るンだって!」 「……」 困る…… どうして、困るの? 困惑する僕の顔を覗き込み、突然両頬を抓って横に引っ張る。 「ほら、言え!」 「……ひゃい」 「ハハッ、ヘンな顔」 屈託のない、ハイジの笑顔。 ホテルで僕の首を絞めた人とは思えない程、優しくて。屈託のない笑顔を浮かべて。 ……心が、切なく震えて、擽ったい。 「……じゃあ、温かいお茶」 「おぅ! んじゃ、買ってくるわ!」 僕の頭をポンポンとし、嬉しそうな笑顔を残して店内へと入っていく。 「……」 でも時々、泣きたくなる。 僕の中にある、負の感情で固められた鉄壁が脆く剥がれ落ち、剥き出された弱い心が、容赦なく晒されてしまいそうで。……怖い。 もし、この未熟な心が傷付けられてしまったら、もう……立ち直れないかもしれない。

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