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第14話
寂れた小さな駅裏にある、侘しい住宅地。鬱蒼と茂る木々や雑草に侵され、普段から薄暗さを感じる細い裏道には、世間から隔離されたような錆び付いた家々が立ち並んでいた。
壁の一部に蔦が蔓延る賃貸の平屋──ここが、少し前まで僕の住んでいた家だ。
『んじゃ、学校行くのに必要なモン、取りに行こうぜ』──学級委員長と別れた後、ハイジに言われるまま来てしまったけど。
「……直ぐ、取ってくるね」
「おぅ!」
僕の不安を余所に、バイクの傍らに立つハイジが笑顔で返す。
薄暗くて、少しひんやりする室内。
フローリングの隅に、薄く降り積もった白い綿埃。
リフォーム済み物件のせいか。外観からは想像できない程現代的な内装。
玄関を入って直ぐにある、開放的な
リビングキッチン。左側の手前にあるのは、母の部屋。
「……」
音を立てず、擦り足気味でそっと奥へと進む。
鍵が掛かっていたから、きっと誰もいない筈──そう思うのに、怖い。
緊張で指先が痺れ、勝手に息を止めてしまう。
母の部屋と奥にあるアゲハの部屋。その間にある、物入れ用の細長い扉。その取っ手に手を掛け、慎重に開ける。
「──!」
きっと、発狂したんだろう。
狭い空間に散らばる、クシャクシャに折れ曲がった教科書、ノート。荒々しく切り刻まれた、数少ない僕の私服。
別に、どうでもいい。
全てを捨てて、この家を出たんだから……
そう思い直そうとしているのに。
ハイジと出会ってから知ってしまった優しさのせいで、胸の奥にある負の鉄壁が崩れ落ち──剥き出された柔くて脆い心に、憎しみの矢が容赦なく突き刺さる。
痛くて。
苦しくて。
膝から崩れ落ち、床にぺたんと尻餅をつく。
勝手に震える手足。
早くここを立ち去りたいのに。目の前にある教科書を拾い上げて、ハイジの元へ……行きたいのに。
怖くて、動けない──!
「……さくら?!」
ビクッ
突然名前を呼ばれ、肩が大きく跳ね上がる。
息を殺したまま、ゆっくりと振り向けば──
「大丈夫か?」
「……」
揺れる視界に映るのは、心配そうに僕を見つめる──ハイジ。
「──って、何だよコレ!」
異変に気付いたハイジが駆け寄り、僕の目の前に散らばったそれらを見下ろす。
「酷ぇ……」
「……」
その瞳が見開かれ、大きく揺れる。
「幾ら家に帰らなかったからって、……酷ぇことしやがるな」
「……」
「さくらのモンをぶっ壊して、こんな所に隠しておくなんて──」
「………違うよ」
人が一人入れる位の、狭い押し入れ。
散らばった物の奥にある薄汚れたケットを眺めながら、ぽつりと呟く。
「ここが、……僕の部屋なんだ」
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