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第15話

……そう。 ここが、僕の部屋。 「おばあちゃんがいなくなるまで、僕は兄と同室だったんだけど……」 母は、僕がアゲハの傍にいるのを極端に嫌い──おばあちゃんという抑止力が無くなった途端、僕の部屋はこの狭い押し入れに変わった。 「それまでもね、ここは僕専用の折檻部屋で。何か気に障る事がある度に、有無も言わさず閉じ込められてた」 「……」 只でさえ、ろくに与えて貰えない食事。独房と化したこの中で、身を縮め震えながら、ただ只管におばあちゃんが助けてくれるのを待つしか無かった。 「……でも。おばあちゃんが亡くなってから、ここが僕の部屋に成り代わって。 扉の外に鍵が取り付けられて、……本当の独房になった」 扉の下部にある、スライド式の鍵。 寝てる間も容赦なく、外から鍵を掛けられた。 ライトもない、真っ暗な空間。 折り畳んだ膝を抱え、扉の外から聞こえてくるテレビの音と笑い声を聞きながら、次第に心が壊れていくのを感じていた。 そんな中──キィ、と開く扉。 『さくら……おいで』『一緒に謝りに行こう』 眩い光の中から、暗闇に潜む僕に手を伸ばすアゲハ。 射し込む光に目が眩み、強く瞼を閉じながら両手で顔を覆う。だけど……アゲハは安全圏に身を置いたまま、僕に近付こうとしない。 僕のいる闇には、決して足を踏み入れてこない。 それが──堪らなく憎たらしかった。 「───何だよ、ソレ!」 吐き捨てるようなハイジの声に、ハッと我に返る。 「ふざけんなっ! さくらが何したっつーんだよ!!」 鋭く吊り上がった眼。 怒りを露わにし、涙で滲んでいるのが見えた。 ……ハイジ…… 「行くぞ、さくら! 必要なモン持って、さっさとここから出るぞ!!」 眉根を寄せたハイジが、散らばった教科書を拾って脇に抱えると、動けずにいる僕の二の腕を掴んで引っ張り上げる。 ふわっ…… 胸元から香る、ハイジの匂い。 僕を掴み上げた手が、僕の背中へと回り……強く、しっかりと抱き締めてくれる。 「……」 その温もりが、心地良くて。 心に突き刺さった矢が、ゆっくりと溶けて消えていくような気がした。

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