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第20話

「大事な授業内容を纏めたものなんだ。目を通すだけでも──」 「いらない!」 先程よりも、キッパリと言ってやる。学級委員長としての使命感だか何だか知らないけど……余計なお世話だ。 反発した目を相手に向ければ、途端に眼鏡の奥にある瞳から光が消える。 「……要らなくはないよね。 不良と付き合ってるなら尚更、君には必要なんじゃないか?」 「──!」 カチン、と頭にくる。 僕だけじゃない。ハイジまで侮辱するなんて。 「これは、君の為に用意したものなんだ。……無下にしないで欲しい」 敵視する僕に詰め寄り、押し付けるようにして差し出されるノート。 最初から引く気はなかったんだろう。『良ければ……』なんて言ってた癖に。 「……僕の為? 自分の為じゃなくて?」 だから、言ってやる。 優等生の仮面だけでは覆えない、その瞳の奥に潜む黒い下心を。 「本当に僕の為を思うなら、僕を踏み台にしてアゲハに近付こうとする女達(あいつら)を、どうにかしてよ」 「……」 「そうじゃないと、折角学校に来ても、まともに授業を受けられないんだよね」 「……」 「見てたら解るでしょ。僕が迷惑してるの。学級委員長なら、困ってる僕の為に何とかしてよ」 一歩、また一歩。 詰め寄りながら捲し立ててやれば、冷や水を掛けられたような顔をした学級委員長が、一歩、二歩……と後退る。 「………わ、わかった。 次の学活で議題に上げて、クラスのみんなと話し合いをしてみるよ」 それだけ言うと、ノートを引っ込めた学級委員長が、踵を返しバタバタと足早に立ち去っていく。 「……」 今まで、こんな風に反発した事なんて無かった。 大抵我慢して、やり過ごして。心の中で反抗心を燻らせるしかなかったのに。 頭に上っていた血の気が引き、今頃になって指先が痺れる。 冷静になってから思う。 適当に受け取って処分してしまえば、ここまで波風立てずに済んだかもしれない。 「……」 でも、なんだろう……この爽快感。 今まで感じた事のない感覚が、身体中を駆け巡る。 ──と同時に襲いかかる、不安。 長年虐げられてきたせいか。心臓の鼓動が、不規則で激しいリズムを刻み続けていた。

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