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第32話
「……さくら、」
吐息と共に溢れる、ハイジの嬌声。
切なくも弱々しく震えて、胸の奥が握り潰されたように苦しくなる。
「お前ンなか、スゲェ気持ちいい……」
ハァ、ハァ、ハァ……
……ごめんね。
また同じ場所に、到達でき そうになくて。
両手を伸ばし、ハイジの背中に回す。汗ばんでいるのに、皮膚の表面が冷たい。
「……」
それまで、ハイジの中に垣間見えていた凶暴性が、あの瞬間──覚醒してしまった。
足早に近付くハイジ。缶ジュース入りのビニール袋を、男の顔めがけてフルスイング。
骨の砕けたような鈍い音。後ろに吹っ飛ぶ男。それを引き摺り起こして胸倉を掴み、取り出した缶を握り締めると、底の硬い部分で容赦なく叩き込む。男の顔面を、何度も何度も……
ドロドロと赤黒く血塗れ、原形が殆ど解らない程に潰れて歪んだ顔。
それでも止めないハイジに、ゾッとする。
バキッ、ゴッ、グチャッ……
邪鬼を孕む、鋭い眼。
人を殺しても厭わない……寧ろそれを愉しむかのように、ニヤリと歪めた口元。
「……」
あの時のハイジは、もうここにはいない。
凶暴で、猟奇的な一面のある自分自身に……ただ脅えているだけ。
確か、僕の首を絞めた時もそうだった。
『マジで一瞬……殺すかと思った』──そう言ったハイジの両手が、酷く震えていて。カッとなった衝動と、それを上手く自御できなかった現実に、戸惑いながらも恐怖を感じているように見えた。
ギッギッギッギッ……
速くなる抽挿 。
淫靡な水音と共に響く、腰を打ち付ける激しい音。
「……ンぅ″、イくッッ──!」
苦しそうに歪められる顔。
それを、ぼんやりとした視界に収めていれば、僕を抱き寄せ、ギュッと強く抱き締められる。
……と同時に、突かれた最奥に、熱いものが濡れ広がっていく。
「……」
きっと、仲間の前では見せた事がなかったんだろう──残酷なまでに豹変したハイジを前に、その場にいた全員が言葉を失っていた。
それでも。凶暴なハイジを止め、正気に戻し、今までと変わらない態度で接してくれる人達もいたけど。
──あの事件を境に、チーム全体の空気が重くなり、何処かギスギスするようになってしまった。
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