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第33話

鎖骨に赤い印を刻んだ後、下に向かって肌上を舌先が這う。そのまま胸の小さな突起に到達し、ピンと弾いた後、舐りながらそれを口に含む。 「……」 ぴちゃ、クチュ…… その行為を何となく眺めながら、この永遠に続く夜の帳に、ただ身を委ねるしかなかった。 * 「……身体、辛くねぇか?」 ギシッ…… ベッドが揺れて歪み、小さく軋む音に目が覚める。瞼を薄く開ければ、カーテン越しに明るい朝陽が射し込んでいた。 「ん……」 「……そっか」 隣に座るハイジの手が、僕の前髪をそっと掻き上げる。 その指先は、もう震えていない。 「昨日は、……その、無理させちまって、悪ぃかった」 「……」 ……ううん。 それだけ、追い詰められてたんだよね…… 小さく頭を横に振れば、僕を見下ろす二つの瞳が、柔らかなものに変わる。 優しくて、自信に満ち溢れる……以前のハイジ。 僕の好きな、ハイジ。 「風呂に湯張ってきたから、一緒に入るか?」 「……うん」 「動けそうか?」 「ん……」 ……大丈夫だよ。 ハイジはいつも、どんな時でも、優しく気遣ってくれるから…… 正方形の青と白が交互に敷き詰められたタイル。湯垢の残る曇った縦長の鏡。 色褪せてひびの入った乳白色の浴槽。見るからに狭くて深いそれは、二人で入るにはとても窮屈だった。 ぱしゃ、と水面が大きく揺れた後、 視界の両端からハイジの腕が現れ、後ろから抱き締められる。 すっぽりと背中がハイジの懐に埋まり……何だか、恥ずかしい。 「……まだ、オレが怖ぇか?」 「え……」 核心をついた質問に、ドキッとする。 確かに……怖くないと言ったら、嘘になる。もしまたハイジが、豹変してしまったら。僕一人の力で止められるか……自信がない。 「……ううん」 「マジで?」 「うん」 肩を竦めたまま小さく頷けば、晒された項にハイジが軽く唇を当てる。 「じゃあ……まださくらの中に、埋まってンだな」 「……ぇ」 「リュウイチって野郎に植え付けられた、恐怖ってのが」 膝を抱えている僕の左手をそっと取り、引き寄せたハイジがその指先にキスを落とす。 「……」 そう……なのかな。 確かに、行為自体は痛くて怖くて仕方がなかったけど。 でも、それだけじゃない。背後から抱き締められた時の温もりは、酷く心地良くて…… あの時の僕にとって、かけがえのない大切なものだったから。 「気付かなかったか?」 「……」 「お前を抱く時、この指が……震えてんの」 ──え。 それは、僕のじゃ無くて……ハイジの…… 人差し指と中指の先が、ハイジの咥内へと取り込まれる。 熱くて、熱くて……酷く柔らかな粘膜。 「……」 少しでも動いてしまったら、傷付けてしまいそうで。何も言えず、只されるが儘になっていた。

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