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第69話 *

××× 今まで学校なんて、嫌だと思っていたのに。……今は、その学校に救われているような気がする。 「今日も仮装行列、……見に行っちゃう?」 「うんっ、行く行くっ!」 「てか、ゾンビメイドやっちゃう?」 「……え、特殊メイク?」 「ハーイ。私、やりたーいっ!」 ざわざわとざわめく教室内。 グループ毎に固まっている女子達は、昨夜から始まったハロウィンの話題でキャッキャと盛り上がっていた。 『ハロウィンの仮装行列かぁ。さくらくんは、黒猫とか似合いそうだな』──昨日の夕刻。キッチンに立つ僕を背に、テレビで流れたニュースを見ながら、ハルオがそんな事を呟いていたのを思い出す。 「……」 この一週間。気が休まる時が無かった。 料理をしている時も。お風呂に入っている時も。ハルオのベッドを借りて、寝る時も。 常に気を張っていなければならなくて。 だから、もう誰も僕に関わろうとする人のいないこの学校(空間)は、不思議と落ち着いた。 ……それにしても、眠い。 もう直ぐ授業が始まるというのに。 席を立ち、教室を出る。 階段を下りて一階にある保健室のドアを開ければ、中はしんと静まり返り保険医の姿は無かった。 窓際にある、レールカーテンの向こう。木漏れ日の注ぐそこに近付き、そっと覗く。 「……」 使われていな真っ新なベッド。 清潔な匂いのする、ピンと張った白いシーツ。 仰向けになり、軽くて柔らかい上掛けを鼻先まで引き上げると、白い天井をぼんやりと眺める。 「……」 はぁ…… ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐き出す。 アパートを出ていこうと思っている事は、まだハルオに伝えてはいない。 実家に戻る為には、アゲハにお願いして間を取り持って貰わなくちゃ、なんだけど…… ──ガラッ 「センセー!」 「あれ、いない?」 「……みたいだねー」 ドアが開いたと同時に聞こえる、元気な女生徒の声。入ってきたのは、二人組らしい。 薬品棚の前にある背もたれのない丸椅子に一人が座り、くるくると回る。 「そういえば、聞いたぁ?」 「……え、何なに?」 「アゲハ王子、ホストになったんだってさ!」 ……え……

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